## ヤーコブソンの言語学と詩学
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言語の詩的機能
ロマーン・ヤーコブソンは、20世紀を代表する言語学者・記号学者であり、彼の業績の中でも特に重要なのが、言語の詩的機能に関する理論です。ヤーコブソンは、言語には単に情報を伝達する機能だけでなく、言語自体に内在する美的効果を生み出す機能、すなわち「詩的機能」が存在すると考えました。
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言語の六つの機能
ヤーコブソンは、言語には以下の六つの機能があると提唱しました。
1. **指示的機能 (referential function):** 文脈や状況に言及し、情報を伝達する機能。
2. **表出的機能 (emotive function):** 話し手の感情や態度を表現する機能。
3. **懇求的機能 (conative function):** 聞き手に働きかけ、行動や反応を引き出す機能。
4. **交話的機能 (phatic function):** コミュニケーションのチャンネルを確立・維持する機能。挨拶やあいづちなどが該当する。
5. **メタ言語的機能 (metalingual function):** 言語を用いて言語自体について言及する機能。
6. **詩的機能 (poetic function):** メッセージの形式に焦点を当て、言語自体を前景化する機能。
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詩的機能のメカニズム
ヤーコブソンは、詩的機能は言語の二つの軸、すなわち「選択の軸」と「結合の軸」において働くことで実現されると説明しました。
* **選択の軸 (axis of selection):** 話し手は、伝えたい内容に応じて、類似した意味を持つ複数の単語の中から適切なものを選択する。
* **結合の軸 (axis of combination):** 選択された単語は、文法規則に従って特定の順序で並べられ、文を構成する。
詩的機能は、この二つの軸における操作、特に「等価性」と「並置」を通じて、言語に美的効果をもたらします。
* **等価性 (equivalence):** 音韻、形態、意味などのレベルにおいて、類似性を持つ要素が繰り返し用いられることで、リズムや韻律を生み出す。
* **並置 (contiguity):** 通常は結びつかない要素が、空間的・時間的に近くに配置されることで、意外性や緊張感を生み出す。
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詩的機能と文学作品
ヤーコブソンの言語理論は、文学作品の分析においても重要な示唆を与えます。彼は、詩的機能は文学作品において最も顕著に現れる機能であると主張し、文学作品を他の言語活動と区別する重要な要素として位置づけました。
ヤーコブソンの理論は、文学作品における音韻、リズム、イメージ、比喩などの表現技法を分析する上で有効な枠組みを提供するだけでなく、文学作品の解釈や評価においても重要な視点を提供します。