## ヤスパースの理性と実存の原点
### ヤスパースの生い立ちと学問的背景
カール・ヤスパース(Karl Jaspers, 1883-1969)は、ドイツの精神科医、哲学者です。彼は、1883年2月23日に、ドイツ北西部のオルデンブルクに生まれました。彼の父は弁護士であり、後に銀行の頭取を務めました。ヤスパースは、ハイデルベルク大学とミュンヘン大学で医学を学び、1908年に医学博士号を取得しました。その後、ハイデルベルク大学の精神科病院で医師として働き始めます。
### 理性への懐疑と実存への関心の芽生え
医学を志し、精神科医としてキャリアをスタートさせたヤスパースでしたが、当時の精神医学の主流であった自然科学的方法に限界を感じ始めます。彼は、人間の精神を客観的に観察し、法則に基づいて説明しようとする自然科学的方法では、人間の精神の深淵、特に、自由、責任、死といった実存的な問題を捉えきれないことに気づいたのです。
この経験を通してヤスパースは、理性中心主義的な伝統的な哲学にも疑問を抱くようになります。彼は、理性によって世界を完全に理解し、説明しようとする試みは、人間の有限性を無視した傲慢な態度であると考えました。
このような理性への懐疑と実存への関心の高まりが、後のヤスパース哲学の礎となります。
### 現象学、解釈学、実存主義の影響
ヤスパースの哲学は、彼自身の経験と考察に加え、当時の様々な思想潮流の影響を受けて形成されました。特に、フッサールの現象学、ディルタイの解釈学、キルケゴールやニーチェの実存主義は、彼の思想に大きな影響を与えました。
フッサールの現象学から、人間の意識の構造や意味を重視する態度を学び、ディルタイの解釈学からは、歴史や文化、そして個人の経験を理解することの重要性を学びました。
また、キルケゴールやニーチェの実存主義からは、人間の自由、責任、不安、そして死といった実存的な問題を正面から見据えることの重要性を学びました。これらの影響が、ヤスパース独自の「実存哲学」へと昇華されていくことになります。