## ヤスパースの理性と実存と時間
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理性と実存の境界における時間
ヤスパースにおいて、理性と実存は互いに緊張関係にある二つの極であり、その間を媒介するのが時間です。理性は客観化し、概念化し、普遍化しようとする働きを持つ一方、実存は個別具体的な、一回的な生の体験を指します。理性は時間を均質なものとして捉え、過去から未来へと流れる一方向的な流れとして理解しようとします。しかし、ヤスパースによれば、このような時間理解は実存的な生の体験を捉えきれていません。
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実存的時間としての限界状況
実存は、理性では捉えきれない、限界状況において立ち現れます。限界状況とは、死、苦悩、闘争、罪といった、人間存在の根底を揺るがすような極限的な状況を指します。このような状況において、人間は自らの有限性を突きつけられ、もはや理性的な思考では対処できないような不安や絶望に直面します。この時、人間は時間を、過去から未来へと流れる均質なものとしてではなく、現在において押し寄せる圧倒的な生の流れとして経験します。
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時間における超越への指向
ヤスパースは、このような実存的な時間経験の中に、超越への可能性を見出します。限界状況に直面することで、人間は自らの有限性を自覚すると同時に、それを超えた何かを志向するようになるからです。ヤスパースはこれを「超越」と呼び、実存が時間の中で絶えず超越へと向かう運動であると考えました。
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時間とコミュニケーション
ヤスパースは、実存が時間の中で超越へと向かう過程は、他者とのコミュニケーションを通してこそ可能になると考えました。なぜなら、他者もまた、私たちと同じように限界状況に立ち向かい、超越を志向する存在だからです。他者との対話を通じて、私たちは自らの実存を客観的に見つめ直し、新たな可能性を切り開くことができます。
時間という概念は、ヤスパースの哲学において理性と実存を繋ぐ重要な鍵であり、人間存在の有限性と超越への志向を理解する上で欠かせないものです。