モームの月と六ペンスの主題
芸術と凡庸さ
物語の中心人物であるチャールズ・ストリックランドは、それまでの人生を送ってきた価値観や常識を捨て去り、画家として生きる道を選びます。彼は、社会的な成功や物質的な豊かさには一切関心を示さず、ただひたすらに自分の内なる衝動に突き動かされるまま、芸術に没頭します。彼の生き様は、当時の社会における「普通」の価値観とは全く相容れないものであり、周囲の人々からは狂気と見なされることになります。
美の追求とその犠牲
ストリックランドは、自分の芸術を完成させるために、あらゆる犠牲を払うことを厭いません。彼は妻や子供、友人、そして彼を支えようとする人々の厚意さえも、自分の芸術にとって必要ないと判断すれば、ためらうことなく切り捨てていきます。彼のこの冷酷ともいえる態度は、芸術の持つ残酷な側面を象徴しているかのようです。
人間の二面性
物語には、ストリックランドのように、社会の規範から逸脱し、独自の道を歩む人物だけでなく、社会的な成功や安定を求める、より「普通」の人物も登場します。ストリックランドのかつての友人である医師、ストリックランドの才能を見出す画商などは、いずれも社会的に認められた地位と生活を手に入れている人物ですが、彼らの人生もまた、必ずしも幸福とは言えない葛藤を抱えています。モームは、こうした対照的な人物像を通して、人間の持つ二面性を浮かび上がらせようとしていると考えられます。