モームの月と六ペンスが扱う社会問題
芸術と社会の対立
主人公ストリックランドは、社会的地位や経済的な成功を捨ててまで、芸術に身を捧げる道を選びます。彼は、社会通念や常識にとらわれず、自分の内なる衝動に忠実に生きようとします。これは、当時の社会において、安定した職業や家庭を持つことが当然とされていた価値観と真っ向から対立するものでした。ストリックランドの生き様は、芸術と社会の間に存在する溝、そして芸術家が社会に適合することの難しさを浮き彫りにします。
物質主義と精神主義
ストリックランドは、絵を描くこと以外にはほとんど興味を示さず、貧困や孤独をも厭いません。彼の姿は、物質的な豊かさよりも、精神的な充足を重視する生き方の象徴として描かれています。一方、ストリックランドを取り巻く人々は、社会的地位や経済的な安定を求めてあくせくとしています。彼らの姿は、当時の社会に蔓延していた物質主義的な価値観を反映しています。ストリックランドと周囲の人々の対比を通して、モームは、真の幸福とは何かを問いかけます。
結婚と恋愛における束縛
ストリックランドは、妻と子供がいながら、家庭を捨てて絵に没頭します。彼は、結婚という制度や、恋愛感情に縛られることを嫌います。ストリックランドの行動は、当時の社会における結婚観や恋愛観に対するアンチテーゼとして描かれています。モームは、ストリックランドを通して、従来の道徳観にとらわれない自由な生き方を模索します。
植民地主義と異文化理解
ストリックランドは、文明社会を離れ、タヒチへと渡ります。彼は、そこで西洋社会の価値観とは異なる文化や生活様式に触れ、新たなインスピレーションを得ます。モームは、ストリックランドのタヒチでの体験を通して、西洋文明の優位性を相対化し、異文化理解の重要性を訴えかけます。