## モームの月と六ペンスから学ぶ時代性
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芸術と社会の対立
「月と六ペンス」は、安定した生活を捨て、画家としての情熱に生きることを選んだ男ストリックランドの物語です。彼は社会的な成功や物質的な豊かさには目もくれず、ただひたすらに自分の内なる衝動に従って生きています。これは、モームが生きた20世紀初頭の、物質主義と精神性の対立を反映していると言えるでしょう。
当時のヨーロッパは、産業革命を経て経済的に大きく発展した一方で、人々の価値観は大きく揺らいでいました。伝統的な価値観が失われつつある中で、人々は新たな生き方や価値観を求めて模索していました。ストリックランドの生き方は、そうした時代の中で、既存の価値観に疑問を抱き、自分の内なる声に従って生きることを選んだ人間の象徴と言えるでしょう。
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植民地主義と異文化理解
ストリックランドは、最終的にタヒチ島に移り住み、そこで創作活動に没頭します。彼は西洋文明を離れ、プリミティブな自然と文化の中でこそ、自分の芸術を追求することができると考えました。これは、当時のヨーロッパ社会における、植民地主義と異文化理解の問題を反映しています。
19世紀から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパ諸国は世界各地を植民地化し、その過程で様々な文化と接触しました。しかし、当時のヨーロッパ社会は、自文化中心主義的な考え方が強く、異文化に対する理解は十分ではありませんでした。ストリックランドがタヒチ島で芸術家として開花したことは、西洋文明の枠組みを超えた、異文化との出会いがもたらす可能性を示唆していると言えるかもしれません。
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女性の立場とジェンダー観
「月と六ペンス」には、ストリックランドの妻や愛人など、様々な立場の女性が登場します。彼女たちは、ストリックランドの芸術に理解を示す者もいれば、彼の身勝手さに苦しむ者もいます。これは、当時の社会における女性の立場やジェンダー観を反映しています。
20世紀初頭は、女性の社会進出が徐々に進展し始めた時代でしたが、依然として男性中心的な価値観が根強く残っていました。ストリックランドと彼を取り巻く女性たちの関係は、そうした時代背景の中で、女性が男性中心社会の中でどのように生きていたのか、また男性が女性に対してどのような態度をとっていたのかを浮き彫りにしています。