## モームの人間の絆の批評
批評における主題
モームの「人間の絆」は出版以来、その文学的価値と倫理観をめぐり、様々な批評を受けてきました。主要な論点は次のとおりです。
* **リアリズムの追求**: モームは作品の中で、ヴィクトリア朝時代の社会通念や道徳観に縛られた人々の偽善性や、人生の苦悩、愛と孤独といった普遍的なテーマを容赦なく描き出しています。これは、当時の文学界に蔓延していたロマン主義的な風潮に対するアンチテーゼとして、高い評価を得ました。批評家たちは、モームの鋭い観察眼と写実的な描写力を賞賛し、人間の弱さや醜さを赤裸々に表現したリアリズム文学の傑作と位置づけました。
* **フィリップの成長**: 主人公フィリップ・ケアリーは、生まれつきの障害や、愛や仕事における挫折など、様々な困難に直面しながらも、自分自身の人生を模索し続けます。彼の成長物語は、多くの読者に共感を呼び、人生の意義や幸福の追求といった普遍的なテーマについて深く考えさせるものとして評価されています。 特に、フィリップが従来の価値観や道徳観を捨て去り、自分自身の価値観に基づいて人生を選択する姿は、個人の自由と自己実現を重視する現代的な視点からも共感を集めています。
* **女性描写**: 「人間の絆」には、奔放なミルドレッドや母性的なアセルニーなど、個性的な女性たちが登場します。彼女たちは、当時の社会においては異端と見なされることもありましたが、フィリップの人生に大きな影響を与え、彼を精神的に成長させます。批評家の中には、モームの女性描写はステレオタイプ的であったり、男性中心的な視点に偏っているという批判もあります。一方で、当時の社会規範に縛られない自由な女性像を描出した点で、先進的であったという評価もあります。
批評における論争点
* **モームのニヒリズム**: モームは人生には本来的な意味や目的はなく、人間の努力はすべて虚無に帰するものであるという、ニヒリスティックな思想を作品に強く反映させていると批判する声もあります。特に、フィリップが最終的に平凡な人生を受け入れる結末は、人生の虚しさを強調するものとして、賛否両論を巻き起こしました。
* **倫理観の欠如**: 一部の批評家は、モームの作品には倫理的な指針が欠如しており、登場人物たちの行動は自己中心的で無責任であると批判しています。特に、フィリップが周囲の人々を傷つけながらも、自分の欲望のままに行動する姿は、道徳的に問題視されることもあります。
これらの論争点は、「人間の絆」が単なる教訓的な物語ではなく、人間の複雑な心理や社会の矛盾を鋭くえぐった問題作であることを示しています。