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モームの人間の絆が扱う社会問題

## モームの人間の絆が扱う社会問題

結婚と女性の社会的地位

 当時のイギリス社会では、女性の多くは結婚を人生の目標と捉え、経済的な安定と社会的地位を夫に依存していました。主人公フィリップの叔母夫婦の関係は、まさにこの社会規範を体現しており、夫は家計を支え、妻は家庭を守るという役割分担が明確化されていました。しかし、作品では結婚生活の現実の姿も描かれており、フィリップの叔母は夫の死後、経済的な困窮に直面します。これは、女性が経済的に自立することの難しさを浮き彫りにしています。

 また、フィリップの恋愛遍歴を通じて、結婚に対する価値観の変遷も示唆されます。自由奔放なミルドレッドに惹かれるフィリップの姿は、従来の結婚観にとらわれない新しい生き方を模索する若者世代の台頭を象徴しているかのようです。

階級社会と貧困問題

 19世紀末から20世紀初頭のイギリスは、階級社会が色濃く残る時代でした。主人公フィリップは孤児として裕福な叔父に育てられますが、周囲との経済的な格差を常に意識しながら成長します。彼が下宿生活を送る中で出会う人々は、芸術家や労働者など、様々な階層の人々が含まれており、当時の社会の縮図を映し出しています。

 特に、フィリップが恋に落ちるミルドレッドは、ウェイトレスとして生計を立てる貧しい女性として描かれます。彼女は経済的な困窮から、フィリップに金銭的な援助を求めるようになり、彼らの関係は歪んでいきます。この描写は、当時の社会における貧富の格差の深刻さを物語っています。

宗教と信仰心の喪失

 ヴィクトリア朝時代のイギリスは、キリスト教信仰が人々の生活に深く根付いていましたが、20世紀に入ると科学の発展や社会構造の変化に伴い、宗教に対する懐疑的な見方が広まりました。フィリップもまた、幼い頃に抱いていた信仰心を徐々に失い、人生の意味や目的を見失っていきます。彼は様々な思想に触れ、模索を続けますが、結局は明確な答えを見つけることができません。

 これは、当時の知識人たちの間で広がっていた、ニヒリズムや実存主義といった思想潮流を反映しています。フィリップの苦悩は、宗教に代わる新しい価値観を確立することができない、現代人の不安を象徴していると言えるでしょう。

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