モーパッサンの女の一生に影響を与えた本
ジャン＝ジャック・ルソー『新エロイーズ』の影響
ギ・ド・モーパッサンの代表作『女の一生』は、19世紀フランス文学を代表するリアリズム小説として知られています。主人公ジャンヌの不幸な半生を通して、当時の社会における女性の抑圧された立場や、人生の悲哀を描いた本作は、発表当時から大きな反響を呼びました。
この作品に大きな影響を与えた作品の一つとして挙げられるのが、ジャン＝ジャック・ルソーの書簡体小説『新エロイーズ』です。18世紀フランスを代表する思想家・文学者であるルソーは、恋愛感情や自然への賛美を謳い上げ、後のロマン主義文学に大きな影響を与えました。『新エロイーズ』は、身分違いの恋に苦悩する男女の姿を描いた作品であり、情熱的な文体と心理描写の巧みさから、発表当時から大きな話題を呼びました。
『女の一生』と『新エロイーズ』は、どちらも恋愛における女性の立場を描いているという点で共通しています。ジャンヌは、結婚相手であるジュリアンに裏切られ、その後も様々な男性と関係を持ちますが、誰一人として彼女を真に愛してくれることはありません。これは、当時の社会において、女性が男性に依存せざるを得ない状況を反映しています。『新エロイーズ』のヒロイン、ジュリーもまた、身分違いの恋に苦しみ、最終的には不幸な運命を辿ります。
モーパッサンは、『新エロイーズ』の持つ恋愛の理想と現実の落差、そして女性の置かれた状況に強く影響を受けたと考えられます。『女の一生』は、ロマン主義的な恋愛観に囚われたジャンヌが、現実の厳しさに打ちのめされていく様子を描いており、ある意味で『新エロイーズ』に対するアンチテーゼとして読むこともできます。
例えば、『新エロイーズ』では、自然が恋愛感情を高めるものとして肯定的に描かれていますが、『女の一生』では、ジャンヌが初めてジュリアンと関係を持つ場面で、自然の風景が無慈悲なまでに冷酷に描写されています。これは、ロマン主義的な自然観に対する皮肉とも取れる描写です。
このように、『女の一生』は、『新エロイーズ』の影響を受けながらも、当時の社会における女性の立場や恋愛の現実をより冷徹な視点から描き出すことで、リアリズム小説としての完成度を高めていると言えるでしょう。