モーパッサンのベラミに影響を与えた本
バルザック「幻滅」の影響
ギ・ド・モーパッサンの「ベラミ」は、野心的なジャーナリスト、ジョルジュ・デュロワの、冷酷なまでに社会的地位と富を追い求める姿を描いた、辛辣な社会風刺小説です。この作品に大きな影響を与えたとされるのが、フランス文学の巨匠、オノレ・ド・バルザックの「幻滅」です。
「幻滅」は、バルザックの代表作である「人間喜劇」を構成する重要な一編であり、純粋な青年リュシアンが、パリという大都会で様々な人間の裏切りや欲望に翻弄され、堕落していく様を容赦なく描いています。モーパッサンは、バルザックの写実的な筆致と社会の暗部を鋭くえぐる視点を高く評価し、「ベラミ」においてもその影響を色濃く反映させています。
両作品に登場する主人公、デュロワとリュシアンは、地方出身の野心的な青年という共通点を持っています。彼らは、美貌や才能を武器に、上流社会への階段を駆け上がろうとしますが、その過程で道徳や良心は失われ、権力や快楽に溺れていく姿は、まさに「幻滅」のリュシアンを彷彿とさせます。
また、両作品における女性たちの描写にも、共通点を見出すことができます。デュロワを取り巻く、マドレーヌやクロティルドといった女性たちは、美貌と社交性を武器に、男たちを利用して自らの欲望を満たそうとするしたたかな存在として描かれています。これは、「幻滅」に登場する、リュシアンを破滅へと導く妖婦コラリーヌや、社交界の女王エステルとの類似性を強く感じさせます。
さらに、「ベラミ」と「幻滅」は、当時のフランス社会におけるジャーナリズムや政治の腐敗を痛烈に批判している点でも共通しています。デュロワは、ゴシップ記事や捏造記事を駆使して、自らの出世の階段を駆け上がっていきますが、これは「幻滅」でリュシアンが、金のために魂を売り、扇情的な記事を量産する姿と重なります。
このように、「ベラミ」は、「幻滅」の影響を色濃く受け継ぎ、フランス文学史上に残る傑作として後世に伝えられています。バルザックの築き上げた写実主義の系譜を受け継ぎ、モーパッサンは、人間の欲望と社会の矛盾を鋭く描き出すことで、フランス文学に新たな地平を切り開いたと言えるでしょう。