## モンテーニュのエセーの周辺
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時代背景
モンテーニュが『エセー』を執筆した16世紀後半のフランスは、カトリックとプロテスタントの対立が激化し、内乱状態に陥っていました。1562年から1598年にかけて断続的に発生したユグノー戦争は、フランス社会に大きな混乱と不安をもたらしました。こうした動乱の時代背景は、モンテーニュの思想に大きな影響を与え、人間の理性や信仰、寛容といった問題を深く考察するきっかけとなりました。
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エセーの特徴
『エセー』は、モンテーニュが自らの読書や経験をもとに、さまざまなテーマについて自由に考察した随想録です。個人的な体験や内省を重視する「私」を積極的に文中に登場させることで、従来の客観性や体系性を重視した哲学書とは一線を画しています。また、ラテン語やイタリア語の引用を豊富に交えながら、軽妙洒脱な文体で綴られる文章も特徴です。
『エセー』は、特定のテーマについて体系的に論じるのではなく、モンテーニュの思考の軌跡をそのまま辿るかのように、多様な話題が展開されます。そのため、一見すると散漫な印象を受けることもありますが、そこには「自分とは何か」を問い続けるモンテーニュの真摯な姿勢が貫かれています。
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影響
『エセー』は、フランス文学の古典として、後世の作家たちに多大な影響を与えました。パスカル、モリエール、ラ・ロシュフコー、モンテスキューなど、多くの作家がモンテーニュの思想や文体から影響を受けています。また、17世紀フランスで隆盛したモラリスト文学は、『エセー』の影響なしには語れません。
『エセー』は、フランスのみならず、ヨーロッパ全土に広く読まれ、近代的人間観の形成に大きな影響を与えました。シェイクスピアやフランシス・ベーコンなど、当時のイギリスの知識人たちもモンテーニュを読んでいたことが知られています。