## モンテーニュのエセーと人間
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「モンテーニュのエセー」とは
ミシェル・ド・モンテーニュ(1533-1592)によって書かれた「エセー」は、1580年に初版が刊行された随想録です。全3巻からなり、歴史、哲学、文学、自身の経験など、多岐にわたるテーマについてモンテーニュ独自の視点で考察が展開されています。「エセー」というフランス語は、「試み」を意味する言葉であり、モンテーニュ自身も本書を「自分自身を試みるための書物」と位置づけています。
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「エセー」における人間観察
「エセー」の中でモンテーニュは、人間存在の本質、理性と感情、道徳、教育、社会、政治など、人間に関する様々なテーマを考察しています。特徴的なのは、既成の概念や権威に囚われず、常に自身の経験や内面に照らし合わせて、率直な意見を展開している点です。
例えば、「人間はみな死すべき運命を持つ」という古代ギリシャ以来の教訓についても、モンテーニュは単に受け入れるのではなく、死への恐怖や不安、そして死を意識することによって生をより豊かに生きることの可能性など、多角的な考察を加えています。
また、モンテーニュは人間の不完全さや矛盾、弱さにも目を向けます。彼は、人間は常に変化し続ける存在であり、絶対的な真理や価値観は存在しないと主張します。この思想は、当時のキリスト教的世界観が支配的な社会においては、非常に革新的なものでした。
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「エセー」の影響
「エセー」は、フランス文学のみならず、ヨーロッパの思想史にも大きな影響を与えました。モンテーニュの自由な思考様式や人間観察の鋭さは、後の時代の思想家や作家たちに大きな刺激を与え、パスカル、ルソー、モンテスキュー、シェイクスピアなど、多くの作家に影響を与えたと言われています。
現代においても、「エセー」は色褪せない魅力を持ち続けています。それは、モンテーニュが人間の根源的な問いについて真摯に向き合い、時代を超えて共感を呼ぶ普遍的な洞察を示しているからと言えるでしょう。