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モリエールの人間嫌いに影響を与えた本

モリエールの人間嫌いに影響を与えた本

エピクロス主義の影響:ルクレーティウス著「物の本質について」

モリエールの傑作「人間嫌い」は、偽善、欺瞞、人間の愚かさを痛烈に風刺した作品です。主人公アルセストの性格と世界観を形成した要因の一つとして、古代ギリシャの哲学者エピクロスの思想、特にローマの詩人ルクレーティウスによって韻文で書かれた哲学的な叙事詩「物の本質について」を通して得た知識が挙げられます。この作品は、エピクロスの教えを鮮やかに描き出し、アルセストの厭世的な視点を形成した可能性のある重要な考え方を提示しています。

快楽の追求としての自己利益:人間嫌いの哲学との共鳴

「物の本質について」は、エピクロスの哲学の中心的な教義である、快楽が人生における究極の善であり、苦痛が究極の悪であるという考えを提唱しています。ルクレーティウスは、人間は自然の欲求と快楽の追求によって動かされると主張し、この考え方は、自己利益が人間の相互作用の根底にあるというアルセストの信念と一致しています。アルセストは、人間関係は利己主義と偽善に基づいていると見ており、本物のつながりや無私のな愛の可能性を拒絶しています。

ルクレーティウスは、過剰と浪費を避けることを強調し、真の快楽は、苦痛や不安のない状態である「アタラクシア」、心の平安である「アパティア」を達成することにあると主張しました。アルセストは世俗的な喜びや社交辞令を嫌悪し、穏やかで孤独な生活を送りたいという願望を表明しており、これもまた、エピクロスの快楽の概念と一致しています。彼は、人間の欲望と感情の混乱から離れてこそ、真の心の平安が得られると信じています。

神の介入の拒絶:人間の欠陥と世俗的な関心の強調

さらに、「物の本質について」では、世界は偶然によって支配されており、神々は人間の事柄に干渉しないという、エピクロスの唯物論的な見解を提示しています。この神の介入の不在は、人間の運命に対する人間の責任という考えにつながります。この考え方は、人間の欠陥や愚かさに執着するアルセストの世界観に反映されています。彼は、道徳的な指針や神の裁きがない世界では、人間は生まれつき欠陥があり、その行動は自己利益と欺瞞によって動かされると信じています。

ルクレーティウスは、「物の本質について」の中で、魂の死すべき性質について詳しく論じ、それは肉体とともに消滅するということを示唆しています。この概念は、現世の生活を重視するエピクロス主義の哲学をさらに強めています。来世に対するアルセストの見解は劇中で明確に述べられていませんが、彼の厭世的な見解や、人間の行動の虚栄心と表面性への固執は、地上における人間の存在の一時的な性質に焦点を当てた、エピクロス主義的な世界観と一致していると言えるでしょう。

結論:複雑な影響の網

「物の本質について」で表明されているエピクロスの思想は、アルセストの考え方と行動を形作った可能性があります。自己利益、偽善に対する軽蔑、真の心の平安の追求など、彼の重要な特徴は、ルクレーティウスによって解釈されたエピクロス主義の原則と一致しています。モリエールがルクレーティウスの作品に精通していたことは周知の事実であり、「人間嫌い」に描かれている哲学的な考え方は、この影響を物語っています。「人間嫌い」は、単一のイデオロギーの産物ではなく、人間の本性に対する複雑で多面的な考察であることを覚えておくことが重要です。しかし、「物の本質について」で表現されているエピクロスの思想は、この不朽の戯曲の登場人物たちの道徳的、社会的風景を形成する上で、重要な役割を果たしたことは間違いありません。

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