## モリエールの人間嫌いと時間
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時間の経過とアルセストの頑なさを対比する構造
「人間嫌い」は、主人公アルセストの極端な正直さゆえに、彼が社会から孤立していく過程を描いた作品です。この過程は、時間の経過と密接に関係しています。
劇は、比較的短い期間、おそらく数日間の出来事を描いています。 この短い時間の枠組みの中で、アルセストは周囲の人間たちの偽善に耐えかね、彼らとの関係を次々と断っていきます。彼の怒り、嫌悪、そして孤独は、時間とともに増大していきます。
一方、周囲の人間たちは、アルセストの言動を一時的な気まぐれだと捉え、時間が解決してくれるだろうと楽観視しています。 彼の婚約者セリメーヌでさえ、アルセストの愛が時間とともに冷めることを期待している様子がうかがえます。
このように、「人間嫌い」は、時間の経過に対するアルセストと周囲の人間の対照的な態度を浮き彫りにしています。 アルセストにとって、時間は彼の信念を揺るがすものではなく、むしろ彼の頑なさを強固にするものです。
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古典主義演劇の三単一の法則と時間
「人間嫌い」は、古典主義演劇の三単一の法則(時間の単一性、場所の単一性、 Handlungの単一性)に従っています。 時間の単一性は、劇中の出来事が24時間以内に収まっていることを要求しています。
「人間嫌い」の場合、劇中の具体的な時間経過は明示されていませんが、登場人物たちの会話や行動から、数時間から数日程度の短い期間であることが推測できます。 このように、限られた時間設定の中で物語が展開されることで、アルセストの葛藤と変化がより鮮明に浮かび上がります。
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時間の流れと登場人物たちの変化の欠如
皮肉なことに、時間の流れはアルセスト以外の登場人物たちにはほとんど影響を与えていません。 彼らは劇の始まりと終わりでほとんど変化を見せていません。
セリメーヌは相変わらず社交的で、フィラントは相変わらずお世辞ばかりで、アルシノエは相変わらず偽善的です。 彼らはアルセストの言葉に耳を傾けるふりをしますが、結局は自分の偽善的な生き方を改めようとはしません。
この登場人物たちの変化のなさが、アルセストの孤独と絶望感をさらに際立たせています。 彼は時間とともに自分の信念を貫き通しますが、周囲の人間たちは時間とともに何も変わりません。