## モアのユートピアを読む前に
トマス・モアとその時代について知る
トマス・モアは、16世紀のイングランドの法律家、思想家、政治家であり、ヘンリー8世の側近としても活躍しました。彼は敬虔なカトリック教徒として知られていましたが、当時の社会矛盾や宗教改革の波に翻弄された人物でもありました。モアは、後に述べる『ユートピア』の執筆を通して、当時の社会に対する鋭い批判と、理想的な社会のビジョンを提示しました。
当時のイギリスとヨーロッパの社会状況を理解する
モアが『ユートピア』を執筆した16世紀初頭のヨーロッパは、大きな転換期を迎えていました。宗教改革の開始、新大陸の発見、そしてルネサンスの開花といった出来事が、ヨーロッパ社会に大きな変化をもたらしていたのです。 特に、イギリスでは、ヘンリー8世による宗教改革が進行中で、カトリック教会の権威が失墜しつつありました。同時に、封建制度が崩壊し、貨幣経済が発展する中で、貧富の格差が拡大し、社会不安が増大していました。
「ユートピア」という言葉の意味を考える
「ユートピア」という言葉は、モアがこの著作の中で初めて用いた造語です。ギリシャ語で「どこにもない場所」を意味する “ou-topos” と、「良い場所」を意味する “eu-topos” を組み合わせた言葉であり、理想郷と同時に、実現不可能な場所という二重の意味が込められています。
ルネサンス期の思想や人文主義について理解を深める
ルネサンス期は、中世のキリスト教的な価値観から脱却し、古代ギリシャ・ローマの文化や思想を復興させようとする動きが活発化した時代でした。 モアもまた、このルネサンス期の人文主義の影響を強く受けた人物であり、古典文学や哲学に深い造詣を持っていました。
ルネサンス期の人文主義者たちは、人間は理性と知性を持つ独立した存在であると考え、人間中心的な世界観を唱えました。彼らは、教育を通じて人間はより良い存在になり、社会を改善できると信じていました。『ユートピア』における、合理性に基づいた社会システムや、教育を重視する社会制度は、こうした人文主義思想の影響を色濃く反映しています。
当時の旅行記や探検記に触れておく
『ユートピア』は、架空の旅行記という形式で書かれており、航海者ヒュスローデェーの目を通して、理想郷ユートピアの社会制度や文化、人々の暮らしぶりが語られます。
当時のヨーロッパでは、新大陸発見の影響もあり、未知の世界に関する旅行記や探検記が人気を博していました。 モアもまた、こうした旅行記から着想を得て、『ユートピア』を執筆したと考えられています。
これらのポイントを踏まえることで、『ユートピア』をより深く理解し、作品が持つ多面的な魅力を味わうことができるでしょう。