モアのユートピアの話法
対話形式による構成
トマス・モアの『ユートピア』は、作者自身である「モア」と、架空の人物である航海者「ヒュトローダエウス」の対話によって構成されています。
この対話形式は、当時のヨーロッパで流行していたプラトンの対話篇の影響を強く受けています。
ヒュトローダエウスは、新大陸への航海中に偶然たどり着いた理想郷「ユートピア」の制度や風俗をモアに語ります。
現実世界との対比
ヒュトローダエウスの語るユートピアの制度や風習は、当時のヨーロッパ社会の悪弊と対比される形で提示されます。
例えば、私有財産を否定し、共有制を敷くユートピアは、私有財産制に基づくヨーロッパ社会の貧富の格差を批判的に浮き彫りにします。
また、宗教の自由を認めるユートピアは、宗教対立が激しかった当時のヨーロッパ社会へのアンチテーゼとして機能しています。
アイロニーと風刺
モアは、ユートピアの描写に際して、アイロニーや風刺を効果的に用いています。
ユートピアの制度や風習は、一見すると理想的に見えますが、よく見ると奇妙で滑稽な側面も持ち合わせています。
例えば、ユートピアでは安楽死が認められていますが、これは当時のヨーロッパ社会における死生観を風刺的に批評しているとも解釈できます。
多様な解釈を許容する語り口
モアは、『ユートピア』の中で、自らの主張を断定的に述べることを避けています。
ヒュトローダエウスの語るユートピアの制度や風俗に対して、モアはしばしば疑問を投げかけたり、反論したりします。
このようなモアの語り口は、読者に一方的な解釈を押し付けるのではなく、多様な解釈を許容する余地を残しています。