## メンガーの国民経済学原理の批評
### 限界効用理論への批判
メンガーは、財の価値はその限界効用によって決定されるとする限界効用理論を提唱しました。これは、財の価値は、その財の追加的な一単位から得られる満足度によって決まるという考え方です。この理論は、古典派経済学が唱えていた労働価値説への批判として提示され、後の新古典派経済学の中心的な理論の一つとなりました。
しかし、メンガーの限界効用理論は、以下のような批判を受けてきました。
### 1. 効用の測定問題
限界効用理論は、効用を数値化できることを前提としています。しかし、効用は主観的なものであり、客観的に測定することは困難です。例えば、ある人がコーヒー一杯から得る満足度を、他の誰かと比較したり、数値化したりすることはできません。
### 2. 財の非分割性
限界効用理論では、財は無限に分割可能であると仮定されています。しかし、現実には、分割できない財やサービスも数多く存在します。例えば、車は半分だけ購入することはできません。このような非分割的な財に、限界効用理論をそのまま適用することは困難です。
### 3. 相互依存性を考慮していない
メンガーの限界効用理論は、個々の財の効用が独立していることを前提としています。しかし、現実には、財やサービスの効用は、他の財やサービスの消費量や価格の影響を受ける場合があります。例えば、コーヒーの効用は、砂糖やミルクの価格や消費量によって変化する可能性があります。
### 方法論的個人主義への批判
メンガーは、経済現象は個人の行動から説明されるべきだとする、方法論的個人主義を強く主張しました。彼は、社会や国家といった集合的な存在は、あくまで個人の行動の結果として捉えられるべきだと考えました。
しかし、この方法論的個人主義も、以下のような批判を受けています。
### 1. 社会構造の軽視
方法論的個人主義は、個人の行動を分析の出発点とするため、社会構造や制度といった要素を軽視する傾向があります。しかし、個人の行動は、社会規範や制度の影響を受けて変化するものであり、個人の行動だけから経済現象を説明することはできません。
### 2. 権力関係の無視
方法論的個人主義は、個人の自由な選択を重視するため、社会における権力関係や不平等性を十分に考慮できません。しかし、現実の経済社会では、権力や富の不平等が存在し、それが個人の選択や行動に大きな影響を与えています。
### 結論
上記のように、「メンガーの国民経済学原理」は、その後の経済学の発展に大きな影響を与えた一方で、限界効用理論や方法論的個人主義を中心に、様々な批判もなされてきました。これらの批判は、メンガーの理論が抱える限界を示すと同時に、経済学における重要な論点を提起していると言えるでしょう。