メルヴィルの白鯨の関連著作
トマス・ホブズの『リヴァイアサン』 (1651)
『白鯨』とホッブズの『リヴァイアサン』は、どちらも人間の本性と自然界における人間の位置付けというテーマを探求している点で共通しています。『リヴァイアサン』は、自然状態では、人生は「万人の万人に対する闘争」であり、人間は利己的で、絶えず死を恐れていると主張しています。この冷酷な環境では、道徳、正義、社会秩序といった概念は存在しません。
ホッブズは、人間の生活を規定し、混沌から秩序を生み出すためには、絶対的な主権者が必要であると主張しています。リヴァイアサンと呼ばれるこの主権者は、個人の自由を犠牲にしてでも、安全と安全保障を保証する絶対的な権力を持つものです。『白鯨』においてエイハブ船長は、理性と秩序の境界線を曖昧にする執念に取り憑かれた人物として描かれ、ホッブズの主権者の概念を体現していると言えるかもしれません。
ヘンリー・デイヴィッド・ソローの『ウォールデン 森の生活』 (1854)
ソローの『ウォールデン 森の生活』は、超絶主義の中心的なテキストであり、『白鯨』とは複雑で多面的な関係にあります。どちらの作品も、19世紀半ばのアメリカの急速な工業化と商業化を背景に、自己発見と自然界における人間の位置付けを探求しています。
ソローは2年間、ウォールデン湖畔の森で自給自足の生活を送った経験を、『ウォールデン』の中で記録しています。彼は、自然とのシンプルな生活を通じて、精神的な洞察と自己充足を見出すことができると主張しています。この点で、『ウォールデン』は、『白鯨』で描かれる物質的な世界への執着、特にエイハブ船長のクジラへの執念に対する反論と解釈することができます。
しかし、『ウォールデン』と『白鯨』はどちらも、自然界の力と人間の経験の広大さへの深い敬意を共有しています。ソローの瞑想的な自然の観察は、メルヴィルの海洋とそこに生息する生物の畏敬の念を抱かせる描写と呼応しています。