メルヴィルのビリー・バッドから学ぶ時代性
メルヴィルの描く18世紀末
ハーマン・メルヴィルの『ビリー・バッド』は、18世紀末のイギリス海軍を舞台に、善と悪、正義と法、そして人間の心の闇を描いた物語です。この作品は、単なる海洋冒険物語ではなく、当時の社会状況や思想を色濃く反映した時代劇としても読むことができます。
フランス革命の影響
物語の背景には、フランス革命とその影響が大きく影を落としています。革命の理想は自由と平等を掲げ、ヨーロッパ中に広がりつつありましたが、一方で恐怖政治や社会不安も引き起こしていました。イギリス海軍内でも、革命思想に共鳴する者が現れ、反乱の動きも出ていました。
ビリー・バッドが乗船する軍艦「ベレロフォン」は、こうした時代の中で、厳格な規律と秩序を維持しようとしていました。艦長のヴェアは、理性と法を重視する人物であり、革命の嵐が吹き荒れる中でも、海軍の伝統と秩序を守ろうとします。
階級社会の現実
『ビリー・バッド』は、当時のイギリス社会に根強く残っていた階級制度の現実も浮き彫りにしています。主人公のビリーは、その美貌と純粋さから「ハンサムな水兵」と呼ばれ、周囲の人々に好かれています。しかし、彼は私生児として生まれ、読み書きもできないという低い身分に甘んじています。
一方、ビリーを陥れるマスター・アット・アームズのクラーガートは、知性と狡猾さを持ち合わせていますが、その出自ゆえに出世の道は閉ざされています。彼は、自分よりも恵まれた立場にいるビリーに嫉妬心を抱き、彼を陥れるために陰謀を企てます。
善と悪の対比
ビリーとクラーガートの対比は、当時の社会における善と悪の概念を象徴しています。ビリーは、生まれながらの善良さ、純粋さ、そして正義感を持ち合わせた人物として描かれています。一方、クラーガートは、知性と狡猾さを持ちながらも、嫉妬心や復讐心といった人間の負の側面を体現しています。
メルヴィルは、この二人の対照的な人物を通して、人間の心の複雑さを探求し、善と悪の境界線がいかに曖昧であるかを問いかけています。