メルロ=ポンティの知覚の現象学を読んだ後に読むべき本
モーリス・メルロ=ポンティの『見えるものと見えないもの』
メルロ=ポンティの主著である『知覚の現象学』は、伝統的な身心二元論や客観主義的な知覚論を批判し、身体を介した主体と世界の相互的な関係としての知覚を描き出す画期的な著作です。しかし、難解な文章と膨大な量の注釈も相相まって、読解は容易ではありません。そこで、『知覚の現象学』をより深く理解するために、『見えるものと見えないもの』を読むことは大いに役立ちます。
『見えるものと見えないもの』は、メルロ=ポンティが1959年から1961年にかけて書き進めていた遺稿をまとめたものです。生前に出版された著作とは異なり、より洗練された簡潔な言葉で書かれているため、メルロ=ポンティの思想のエッセンスに触れることができます。特に重要なのは、彼が晩年に到達した「肉」の概念が展開されている点です。
メルロ=ポンティは、視覚を通して世界を知覚する際、私たちに見えているものと見えていないものが、不可分な関係にあることを指摘します。例えば、私たちは机の全面を一度に見ることはできませんが、見えない部分もまたそこに存在していると確信しています。そして、机の周りを移動することによって、見えない部分が現れ、見えていた部分が隠れていきます。このような見えるものと見えないものの相互作用、つまり「両義性」こそが、世界の深まりや奥行きを生み出しているのです。
「肉」は、このような両義性を可能にする基底的な次元として位置付けられます。それは、主体と客体、自己と他者を分かつ境界線ではなく、両者を包み込み、互いに触れ合い、織りなす関係性そのものを指します。メルロ=ポンティは、絵画や言語、自然といった具体的な事例を通して、「肉」の概念を多層的に展開していきます。
『見えるものと見えないもの』を読むことで、私たちはメルロ=ポンティの思想の核心である「身体性」「間身体性」「世界内存在」といった概念を、より具体的に、そしてより深く理解することができます。それは、私たち自身の身体的な経験と世界への関わり方を問い直す、豊饒な哲学的探求へと繋がっていくでしょう。