メルロ=ポンティの知覚の現象学の関連著作
現象学の始祖:フッサールの影響
メルロ=ポンティの現象学は、エドムント・フッサールの著作、特に『論理学研究』、『イデэн』、『デカルト的省察』に大きな影響を受けています。フッサールは、意識の構造と志向性、すなわち意識は常に何かに「向かっている」という性質を強調しました。
フッサールは、自然主義や心理学主義に対抗し、意識の独自のあり方を記述する現象学的方法を提唱しました。この方法論は、メルロ=ポンティの身体と世界の関係を分析する上での基礎となりました。例えば、「エポケー」(判断中止)の概念は、先入観や既存の知識から離れて、事物をありのままに記述することを目指すものであり、メルロ=ポンティの知覚の分析にも受け継がれています。
ハイデガーの存在論と身体の現前性
メルロ=ポンティは、マルティン・ハイデガーの存在論、特に主著『存在と時間』から大きな影響を受けています。ハイデガーは、人間を「現存在」(Dasein)として捉え、世界内存在、時間性、歴史性といった側面を強調しました。
ハイデガーは、伝統的な哲学が「現前」(Vorhandenheit)として捉えてきた存在様式を批判し、「現存在」という、世界内に投げ込まれ、時間の中で存在する存在様式を明らかにしようとしました。メルロ=ポンティは、この「現存在」の分析を自身の身体論へと展開し、「身体図式」(schéma corporel)や「私は私の身体である」(Je suis mon corps)といった概念を通じて、身体の現前性と世界への関わりを明らかにしようとしました。
ゲシュタルト心理学と知覚の全体性
メルロ=ポンティは、知覚の分析において、ゲシュタルト心理学の知見も積極的に取り入れています。ゲシュタルト心理学は、知覚が部分の集合ではなく、全体として組織化されていることを強調しました。
ヴェルタイマー、ケーラー、コフカといったゲシュタルト心理学者は、知覚における「全体性」、「形態」、「背景と図」といった概念を用いて、知覚のメカニズムを説明しようとしました。メルロ=ポンティは、これらの概念を現象学的な観点から再解釈し、知覚における身体の能動性と意味付与の役割を明らかにしようとしました。