ミルトンの復楽園が扱う社会問題
神の摂理と自由意志
『失楽園』の中心的な社会問題の一つは、神の摂理と自由意志のせめぎ合いです。神は全知全能でありながら、なぜ被造物が悪に染まることを許すのかという問いは、作中の人物たちの議論を通して繰り返し提示されます。アダムとイブは、エデンの園で自由意志を与えられ、善悪を知る木の実を食べないよう命じられます。しかし、サタンの誘惑により、彼らは禁断の果実を口にしてしまいます。これは、彼ら自身の選択の結果ではありますが、同時に、神は彼らが堕落することを予見していたとも考えられます。このジレンマは、人間の責任、神の正義、自由意志の本質といった、今日でも議論され続ける深遠な問題を提起しています。
ジェンダーとヒエラルキー
『失楽園』は、男性中心的な社会におけるジェンダーの役割についても鋭い考察を提供しています。アダムとイブの関係は、伝統的なヒエラルキーを反映しており、アダムは理性と精神の象徴として描かれ、イブは肉体と感情の象徴として描かれます。サタンは、イブの虚栄心を巧みに利用し、彼女を誘惑します。これは、女性が男性よりも堕落しやすく、誘惑の根源であるという当時の一般的な偏見を反映しています。しかし、ミルトンは、アダムもまたイブへの愛ゆえに、神の戒めに背くことを選びます。この描写を通して、ミルトンは、男性もまた、欲望や感情に左右される存在であり、女性だけが罪の根源ではないことを示唆しているのかもしれません。
知識と欲望
知識と欲望の関係も、『失楽園』における重要なテーマです。サタンは、アダムとイブに、禁断の果実を食べることで、神のような知識を得ることができると唆します。これは、知識への渇望が、人間を破滅に導く可能性を示唆しています。実際に、アダムとイブは、果実を食べた後、自分たちの無知を恥じ、裸であることに羞恥心を抱くようになります。彼らの知識欲は、罪悪感や不安といった、新たな苦しみをもたらす結果となります。
政治と権力
『失楽園』は、ミルトンが生きていた17世紀のイングランドの政治的混乱を反映しており、権力と反乱というテーマを深く掘り下げています。サタンは、天国における神の支配に反旗を翻し、自由を求めて地獄へと堕ちていきます。これは、当時のイングランドで起こった清教徒革命や王政の廃止といった政治的動乱を彷彿とさせます。サタンの反逆は、必ずしも正当化されるわけではありませんが、彼の雄弁な語り口は、絶対的な権力に対する疑問を投げかけ、自由意志と自己決定の重要性を訴えかけるものとして、読者の共感を呼ぶ側面も持ち合わせています。