ミルトンの失楽園の発想
テーマ：<h3> 神の摂理と人間の自由意志
ミルトンは、『失楽園』において、全知全能の神の摂理と、自由意志を与えられた人間の選択という、キリスト教神学における根源的な問いを探求しています。アダムとイブは、エデンの園で楽園的な生活を送っていましたが、蛇の誘惑に屈し、禁断の果実を食べるという罪を犯します。この行為は、神の戒めに対する違反であり、人間の自由意志による選択の結果でした。ミルトンは、彼らが自らの欲望と好奇心に従い、神の意志に背いた過程を克明に描き出すことで、人間の弱さと罪深さを浮き彫りにしています。
叙事詩の形式と目的：<h3> 古典に倣い、キリスト教を讃える
ミルトンは、古代ギリシャ・ローマの叙事詩、特にホメロスの『オデュッセイア』やウェルギリウスの『アエネーイス』を意識し、『失楽園』を壮大なスケールで展開しています。彼は、古典的な叙事詩の形式を踏襲しながらも、キリスト教的な世界観に基づいた独自の作品を生み出しました。彼の目的は、単に聖書の物語を詩にすることではなく、人間の堕落と救済という壮大なテーマを、芸術的な完成度を持って描き出すことでした。
登場人物の造形：<h3> 多面的で複雑な心理描写
ミルトンは、『失楽園』の登場人物たちを、善悪二元論に単純化することなく、多面的で複雑な心理を持つ存在として描いています。例えば、サタンは、神への反逆者として描かれる一方で、雄雄しい姿や雄弁な言葉遣いによって、読者の共感を誘う側面も持ち合わせています。また、アダムとイブも、罪を犯す前の純粋な状態だけでなく、誘惑に揺れ動く心理や、罪を犯した後の互いを責め合う姿など、人間らしい弱さや葛藤が描かれています。
失楽園における政治的寓意：<h3> 当時の社会とミルトンの思想を反映
『失楽園』は、単なる宗教的な作品ではなく、当時のイギリスの政治状況やミルトンの共和主義的な思想を反映しているという側面も持ち合わせています。例えば、サタンの率いる反乱軍と、神の軍勢との戦いは、イングランド内戦における王党派と議会派の対立を暗示しているとも言われています。また、ミルトンは、作中で自由意志の重要性を強調することで、絶対王政に対する批判を暗に示唆しているとも解釈されています。