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ミルトン「失楽園」の形式と構造

ミルトン「失楽園」の形式と構造

ジョン・ミルトンの叙事詩「失楽園」は、創世記のアダムとイヴの堕落を描いた作品であり、英文学における叙事詩の中でも特に高い評価を受けています。本作は、形式や構造においても、ミルトンの創造的な才能が如何なく発揮された例として知られています。

形式の特徴

「失楽園」は、伝統的な叙事詩の形式を踏襲しつつ、いくつかの革新的な要素を取り入れています。まず、この作品は全12巻から構成されており、各巻は数千行のヨーロッパ風韻律詩(ブランクヴァース)で書かれています。ブランクヴァースとは、押韻を用いず、五歩格のヨーダ音脚(アイアンビック・ペンタメーター)で構成される詩形で、英語の音韻に自然に調和し、荘重な雰囲気を醸し出します。

ミルトンは叙事詩の伝統を尊重しつつ、神と人間、善と悪、自由意志と運命といった普遍的なテーマを深く掘り下げることで、古典的な形式に新たな命を吹き込みました。また、彼は叙事詩において一般的な呼びかけ(インヴォケーション)の慣習を踏襲しながら、それをキリスト教的な視点で再解釈し、作品の冒頭で「天のミューズ」に祈りを捧げることで、この詩の神聖さを強調しています。

構造的な特徴

「失楽園」の構造は非常に巧妙で、物語は天界、地獄、地上の三つの異なる舞台で展開します。ミルトンはこれらの設定を利用して、物語の幅広いテーマと多層的な対比を表現しています。たとえば、サタンの反乱と堕落は、アダムとイヴの堕落と対比され、読者に道徳的な選択とその結果についての洞察を与えます。

加えて、ミルトンは時間と空間を独自の方法で操ることで、叙事詩の伝統的な時間軸を超越します。彼は回想や予兆を巧みに用いることで、物語の緊張感を高め、過去と未来、因果関係をリンクさせています。この技術は、特にサタンが過去の栄光を振り返りつつ、未来の復讐を誓う場面で効果的に使用されています。

ミルトンの「失楽園」は、その形式と構造において、古典的な叙事詩の枠を越え、個人の内面世界と宇宙的な運命を巧みに結びつけることで、読者に深い印象を与える作品となっています。このようにして、ミルトンは西洋文学における不朽の名作を創出しました。

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