ミルの自由論に影響を与えた本
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ベンサム『道徳論と立法の諸原理序説』
ジョン・スチュアート・ミルの『自由論』は、個人の自由を擁護した古典として知られていますが、その思想的背景には、功利主義の創始者ジェレミー・ベンサムの多大な影響がありました。中でも、『道徳論と立法の諸原理序説』(1789年)は、ミルの自由論の根幹を成す功利主義の原則を体系的に示した書物として、見過ごすことのできない一冊です。
ベンサムは同書において、「最大多数の最大幸福」という原則を打ち出し、道徳や法律の基準を人間の幸福に求めました。つまり、ある行為が道徳的に正しいか、あるいは法的に許されるべきかどうかは、その行為が社会全体の幸福を増進させるかどうかにかかっている、と主張したのです。
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ベンサムの功利主義とミルの自由論
ベンサムの功利主義は、ミルの自由論に多大な影響を与えました。ミルは、個人の自由を最大限に尊重することが、結果として社会全体の幸福の増進に繋がると考えました。
『自由論』においてミルは、言論の自由の重要性を説き、政府による検閲や抑圧を強く批判しています。これは、自由な議論こそが真理の発見に不可欠であり、社会の進歩を促すと考えたからです。
また、ミルは個人の行動の自由についても、他者に危害を加えない限りは最大限に認められるべきだと主張しました。これは、個人が自分の幸福を追求する自由こそが、多様な価値観を生み出し、社会を活性化させると考えたからです。
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ミルの批判的継承
ただし、ミルはベンサムの功利主義をそのままの形で受け入れたわけではありませんでした。ベンサムが重視したのは「量の計算」であり、幸福の総量を最大化することのみを追求しました。
一方、ミルは幸福の「質」の違いも考慮すべきだと主張しました。精神的な喜びは肉体的な快楽よりも価値が高いと考え、人間の尊厳や自己実現を重視する立場をとったのです。
このように、ミルはベンサムの功利主義を批判的に継承しながら、『自由論』において個人の自由を擁護する独自の論理を展開していきました。