## ミルの代議制統治論の発想
ミルが「代議制統治論」を執筆した背景
ジョン・スチュアート・ミルが『代議制統治論』を執筆した19世紀半ばのイギリスは、産業革命の進展による経済成長や社会構造の変化、フランス革命の影響などにより、政治体制の見直しが迫られていました。
特に、選挙権の拡大を求める国民の声が高まっており、ミル自身も功利主義の立場から、より広範な人々の幸福を実現するために、より民主的な政治体制が必要であると考えていました。
「代議制統治論」における代議制の意義
ミルは、当時の社会状況を踏まえ、直接民主制ではなく代議制こそが、最も優れた政治体制であると主張しました。
彼は、大規模かつ複雑な現代社会において、すべての人々が政治に参加することは現実的ではなく、また専門知識や経験が必要な政治判断を、一般市民に委ねることは適切ではないと考えました。
そこで、国民の代表者が議会において審議し、政策を決定する代議制を採用することで、専門性と国民の意思の反映を両立できると考えたのです。
「人民による人民のための政治」の実現
ミルは、代議制において重要なことは、「人民による人民のための政治」を実現することであると強調しました。
そのためには、国民の政治意識を高め、代表者が国民全体の利益を代表するように促す必要があると考え、選挙権の拡大や教育の普及、言論・出版の自由の保障などを主張しました。
「多数者の専制」への懸念
一方でミルは、代議制においても、「多数者の専制」に陥る危険性を指摘しました。
これは、多数派の意見が常に正しいとは限らず、少数派の意見を抑圧することで、社会全体の幸福が損なわれる可能性があるためです。
そこで彼は、少数派の意見を尊重し、自由な議論を保障することの重要性を説き、比例代表制の導入など、少数派の意見も政治に反映されるような制度設計を提案しました。
「代議制統治論」が後世に与えた影響
ミルの『代議制統治論』は、近代民主主義の基礎を築いた古典的名著として、今日でも高く評価されています。
彼の思想は、その後の民主主義の発展に大きな影響を与え、現代の政治制度や議論にも通じる普遍的な課題を提起しています。