マーシャルの経済学原理と人間
マーシャルの経済学原理とは
アルフレッド・マーシャルは、19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍したイギリスの経済学者です。彼の主著『経済学原理』(Principles of Economics, 1890年) は、近代経済学の基礎を築いた古典として知られています。マーシャルは、当時の経済学を支配していた古典派経済学と歴史学派経済学の対立を克服し、両者の長所を取り入れた新しい経済学体系を構築しようとしました。
経済学における人間の位置づけ
マーシャルの経済学の中心には「人間」が存在します。彼は、経済学を「通常の事業活動における人間の研究」と定義しました。つまり、マーシャルにとって経済学は、単なるお金や物の動きを分析する学問ではなく、人間が日々の生活の中で行う選択や行動、そしてその結果生じる社会現象を解明する学問だったのです。
合理的な経済人とその限界
マーシャルは、人間を「合理的経済人」として捉えました。合理的経済人とは、自己の利益を最大化するために、常に合理的な判断と行動を選択する存在です。マーシャルは、人々が限られた資源をどのように配分し、最大の満足を得ようとするかを分析しました。
しかし、マーシャルは同時に、人間の行動は常に合理的であるとは限らないことも認識していました。彼は、習慣、道徳、感情といった非合理的な要因もまた、人間の経済活動に大きな影響を与えることを指摘しました。
経済活動と社会福祉の関係
マーシャルは、経済学の目的を社会福祉の向上に求めるべきだと考えました。彼は、経済活動は単に個人の利益を追求するためだけにあるのではなく、社会全体の幸福に貢献するためのものであるべきだと主張しました。
マーシャルは、自由競争市場メカニズムは資源の効率的な配分と経済成長をもたらすものの、貧困や格差といった社会問題を生み出す可能性も孕んでいることを認識していました。そこで彼は、政府による適切な介入や社会政策を通じて、市場の失敗を補正し、社会福祉を向上させることの重要性を説きました。