## マンの魔の山の対称性
### 構成における対称性
トーマス・マンの長編小説『魔の山』は、時間と空間の構成においてある程度の対称性を示しています。例えば、主人公ハンス・カストルプのサナトリウム滞在期間は7年間に及びますが、これは旧約聖書におけるヤコブの7年間の労役を暗示しており、物語に宗教的な深みを与えています。また、小説は大きく前半と後半に分けられ、前半は比較的穏やかな日常生活を描写するのに対し、後半は第一次世界大戦の勃発とナフター夫人の退場により緊張感が高まります。この対称的な構成は、戦争という極限状況における人間の生の光と影を浮き彫りにしています。
### 登場人物における対称性
作中に登場する人物たちの関係性にも、対称性が見られます。例えば、主人公カストルプと彼の従兄弟ヨアヒムは、生と死、精神と肉体、理性と感性など、対照的な価値観を体現する存在として描かれています。また、サナトリウムの指導者であるベーレンス医師と、自由な思想を持つセテムブリニ氏も、対照的な思想や立場を示す人物として対比されています。これらの対称的な関係性は、カストルプの成長と葛藤を際立たせる役割を担っています。
### モチーフにおける対称性
小説には、雪、熱、時間、音楽、レントゲン写真など、様々なモチーフが登場しますが、これらのモチーフもまた対称的な意味合いを持つ場合が少なくありません。例えば、「雪」は純粋さや死を象徴する一方で、「熱」は情熱や生を象徴しています。また、「時間」はサナトリウム内では相対的なものとして描かれ、現実世界とは異なる時間の流れを感じさせます。これらのモチーフは、物語のテーマである生と死、時間と空間、理性と感性などを象徴的に表現する役割を果たしています。