マンのヴェニスに死す
美の追求と退廃
衰退期を迎えた老作家グスタフ・フォン・アッシェンバッハは、芸術の完成形を求めてヴェニスを訪れます。そこで彼は、完璧な美しさを持つ少年タジオに魅了されます。アッシェンバッハにとってタジオは、もはや一人の少年ではなく、芸術の理想像そのものです。彼はタジオの美しさに執着し、その姿を追い求めることに没頭していきます。しかし、ヴェニスはコレラの流行という醜悪な現実を抱えていました。アッシェンバッハの美への執着は、やがて彼自身の老いと死に対する恐怖、そして倫理観の崩壊へと繋がっていきます。
精神的な葛藤と崩壊
アッシェンバッハは、理性と知性を重視する人物として描かれています。しかし、タジオへの抑圧された欲望は、彼の理性を徐々に蝕んでいきます。彼は、理性と本能、規律と解放、そして生と死の間で激しく葛藤します。そして、その葛藤は、彼の精神的なバランスを崩し、最終的には破滅へと導いていきます。
愛と死の表裏一体性
アッシェンバッハにとって、タジオへの愛は、崇拝の対象であると同時に、死への憧憬と結びついています。彼は、タジオの美しさの中に、永遠性と同時に、儚さ、そして死の影を見て取ります。彼の愛は、生への執着ではなく、むしろ死への傾倒へと向かっていきます。そして、コレラが蔓延するヴェニスで、彼は自らの老いと死を受け入れ、タジオへの狂おしいほどの愛に身を委ねながら、静かに息を引き取ります。