マンのヴェニスに死すの表象
美の表象
作品中で、美は主にタッジオという少年の姿を通して描かれます。タッジオは完璧なまでに美しい少年として登場し、主人公のアッシェンバッハは彼の美しさに強く惹かれていきます。アッシェンバッハは芸術家として、その卓越した美しさに芸術的なインスピレーションを感じ、彼をモデルに作品構想を練る様子も見られます。しかし、その美しさは同時に、アッシェンバッハを破滅へと導くものでもあります。彼はタッジオへの執着から、コレラ流行のヴェニスから逃げることすらできず、最終的に死を迎えることになります。このように、美は作品の中で、憧れと同時に、危険な魅力を孕んだものとして描かれています。
死の表象
ヴェニスという都市自体が、死の表象として描かれています。かつての栄華を偲ばせる美しい街並みは、老朽化が進み、潮の香りと湿った空気は、一種の退廃的な雰囲気を漂わせています。さらに、作中で蔓延するコレラの流行は、死の影をより色濃く浮かび上がらせます。アッシェンバッハは、ヴェニスに到着した当初から、街に漂う不吉な兆候を感じ取っていましたが、タッジオへの執着から逃れることができず、その結果として死を迎えます。このように、死は抗うことのできない運命として、作品全体に影を落としています。