## マンのヴェニスに死すと時間
時間と衰退
トーマス・マンの小説「ヴェニスに死す」は、時間の経過と、それに伴う老いと死に対する人間の不安を、鮮やかに描き出しています。主人公グスタフ・フォン・アッシェンバッハは、成功した老年の作家ですが、創造力の衰えと肉体の老化に直面しています。彼はヴェニスへの旅を通して、抗うことのできない時間の流れと、それがもたらす美と腐敗の両方に魅了されていきます。
アッシェンバッハがヴェニスに滞在する中で、街の美しさは、コレラ流行の影で徐々に蝕まれていきます。この対比は、人生における時間の経過を象徴しています。若さと美しさは、老いと死によって必然的に衰退していく運命にあります。アッシェンバッハは、ポーランドの美少年タッジオに理想化された美を見出しますが、タッジオもまた、時間によって変化する存在であることを認識します。
時間と執着
アッシェンバッハのタッジオへの執着は、時間に対する彼の不安の高まりを反映しています。彼は、過ぎ去った時間、とりわけ自身の失われた若さと美しさを取り戻そうと、必死にタッジオの姿を追い求めます。しかし、彼の努力は徒労に終わり、時間の一方向性に直面させられます。
小説全体を通して、時間は、アッシェンバッハの内的葛藤を際立たせる重要な要素として機能しています。彼は、時間の流れに抗うことの不可能性を認識しながらも、美と若さへの執着を手放すことができません。この葛藤は、最終的に彼の死へと繋がっていくのです。