# マルサスの人口論を深く理解するための背景知識
18世紀後半のイギリス社会
マルサスが『人口論』を著した18世紀後半のイギリスは、まさに激動の時代でした。産業革命の開始により、社会構造、経済状況、そして人々の生活様式は大きく変化しつつありました。
**産業革命の影響**: 産業革命は、農業中心の社会から工業中心の社会への転換をもたらしました。蒸気機関などの発明により工場制機械工業が発展し、都市部への人口集中が加速しました。都市部では雇用機会が増加しましたが、同時に貧困、劣悪な住環境、衛生問題など、様々な社会問題も深刻化しました。
**啓蒙主義**: 18世紀のヨーロッパでは、理性と科学に基づいた社会改革を目指す啓蒙主義が広く普及していました。啓蒙思想家たちは、人間の理性によって社会を改善し、より幸福な社会を実現できると考えていました。マルサスも啓蒙主義の影響を受けており、社会問題の解決に関心を抱いていました。
当時の貧困問題に対する考え方
18世紀後半のイギリスでは、貧困が深刻な社会問題となっていました。貧困層の増加に対する対策として、救貧法が実施されていましたが、その効果については様々な議論がありました。
**救貧法**: 救貧法は、貧困者を救済するための法律で、エリザベス1世の時代に制定されました。救貧法では、貧困者は救貧院で生活するか、あるいは地域社会からの金銭的な援助を受けることができました。しかし、救貧法は貧困の根本的な解決にはならず、むしろ貧困層の増加を招いているという批判もありました。
**功利主義**: 18世紀後半には、功利主義という思想も台頭してきました。功利主義は、「最大多数の最大幸福」を追求することを主張する思想で、社会政策は、できるだけ多くの人々の幸福を増進するように設計されるべきだと考えました。マルサスは功利主義の影響も受けており、人口増加が社会全体の幸福を減少させるのではないかと懸念していました。
人口増加に対する当時の楽観論
マルサスが『人口論』を発表した当時、人口増加は社会にとって好ましいものと考える楽観的な見方が主流でした。
**ウィリアム・ゴドウィン**: ゴドウィンは、アナーキズムの先駆者として知られる思想家で、著書『政治的正義』の中で、人口増加は社会の発展に不可欠であると主張しました。彼は、理性と教育によって人間の道徳が向上し、人口増加に伴う問題も解決できると考えていました。
**コンドルセ**: コンドルセは、フランス革命期の政治家であり、啓蒙思想家でもありました。彼は、著書『人類精神進歩史表』の中で、科学技術の進歩と社会制度の改善によって、人口増加と食糧生産のバランスが保たれ、人類は無限の進歩を遂げることができると楽観的に予測しました。
マルサス以前の人口論
マルサス以前にも、人口増加とその影響について考察した学者はいました。
**リチャード・カンティロン**: カンティロンは、アイルランド出身の経済学者で、著書『商業の本質について』の中で、人口増加と食糧生産の関係について論じています。彼は、人口は幾何級数的に増加するのに対し、食糧生産は算術級数的にしか増加しないため、人口増加は食糧不足を引き起こす可能性があると指摘しました。
**デイヴィッド・ヒューム**: ヒュームは、スコットランド出身の哲学者で、歴史家でもありました。彼は、人口増加は経済発展を促進する一方で、資源の枯渇や環境問題を引き起こす可能性があると指摘しました。
マルサスは、これらの先行研究を踏まえつつ、独自の視点から人口問題を分析し、『人口論』を著しました。彼の思想は、その後の社会思想や経済学に大きな影響を与えることになります。
まとめ
マルサスの人口論を深く理解するためには、18世紀後半のイギリス社会の状況、当時の貧困問題に対する考え方、人口増加に対する楽観論、そしてマルサス以前の人口論といった背景知識を理解することが重要です。これらの背景知識を踏まえることで、『人口論』の内容をより深く理解し、マルサスの主張の意義や限界を適切に評価することができます。
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