## マルサスの人口論の周辺
人口論とは何か
トーマス・ロバート・マルサスによって1798年に匿名で発表された『人口論』は、正式には『人口の原理に関する一考察－その原理は将来の人類の幸福に及ぼす影響について考察し、人類の悲惨を改善するための提案を論駁する』という題名です。この書は、当時のイギリス社会で楽観的に語られていた進歩史観や社会改良論に対して、人口増加の観点から批判を加えたものです。
人口論の主張
マルサスは人口と食糧供給の関係に着目し、以下の2つの前提を立てました。
* 人口は抑制されなければ幾何級数的に増加する
* 食糧生産は算術級数的にしか増加しない
これらの前提に基づき、マルサスは人口増加が食糧供給を上回り、貧困や飢饉、病気などの「窮乏」が生じると主張しました。そして、この「窮乏」が人口増加に歯止めをかける自然的な抑制力として働くとしています。
人口論に対する批判
マルサスの人口論は発表当時から多くの議論を呼び、現在に至るまで様々な批判が加えられています。主な批判は以下の点が挙げられます。
* **技術革新を考慮していない**: マルサスは農業技術の進歩による食糧生産の増加を過小評価しており、実際には彼の予測よりも食糧生産は増加しました。
* **人口増加と経済成長の関係**: 人口増加は必ずしも経済成長の阻害要因ではなく、むしろ労働力や市場の拡大を通じて経済成長を促進する側面も持ちます。
* **貧困の原因**: マルサスは貧困の原因を人口増加に求めましたが、社会構造や資源配分の不平等なども貧困の要因となります。
人口論の影響
多くの批判がある一方で、マルサスの人口論は経済学、社会学、生物学など様々な分野に大きな影響を与えました。
* **ダーウィンの進化論**: ダーウィンはマルサスの「生存競争」の概念から、自然淘汰による進化論の着想を得たとされています。
* **新マルサス主義**: マルサスの人口論を現代社会に適用し、人口抑制の必要性を訴える思想です。環境問題や資源枯渇の問題と関連して議論されることがあります。
マルサスの人口論：現代社会への示唆
マルサスの人口論は、現代社会における人口問題や環境問題を考える上でも重要な視点を提供しています。特に、地球規模で人口が増加し続ける中で、資源の有限性や環境負荷の増大といった課題への対応は不可欠です。マルサスは人口増加がもたらす負の影響を指摘することで、私たちに持続可能な社会のあり方について考えるきっかけを与えていると言えるでしょう。