## マルサスの人口論の原点
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社会背景
トーマス・ロバート・マルサスが『人口論』初版を匿名で発表したのは1798年のことでした。当時のイギリスは産業革命の初期にあたり、経済と人口は大きく変動していました。
産業革命による工場労働の需要増加や医療技術の向上は、都市部への人口集中と出生率の上昇をもたらしました。一方で、貧困層の生活は厳しく、人口増加によって貧困がさらに深刻化するのではないかと懸念されていました。
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思想的背景
マルサスは、啓蒙主義思想家ウィリアム・ゴドウィンの『政治的正義』や、人口増加と食糧生産の限界について論じたリチャード・プライスの著作に影響を受けました。
ゴドウィンは理性による社会進歩と貧困の克服を説いたのに対し、マルサスは人口増加が幾何級数的に進行する一方で、食糧生産は算術級数的にしか増加しないという「人口法則」を主張し、人口と資源のバランスの問題を提起しました。
マルサスは、貧困や飢饉は人口増加を抑える自然の法則として捉え、福祉政策は人口増加を招き、結果的に貧困問題を悪化させると批判しました。
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『人口論』の内容
マルサスは『人口論』の中で、人口と食糧供給の不均衡がもたらす社会への影響について論じました。彼は、人口増加を抑える「抑制要因」として、道徳的抑制(晩婚化や禁欲)と積極的抑制(飢饉、戦争、疫病)の二つを挙げました。
マルサスは、貧困層への救済は一時的な効果しかなく、人口増加を招き、結果的にさらなる貧困を生み出すと主張しました。そして、道徳的抑制によって人口増加を抑えることが重要であると説きました。