## マルクーゼの『エロス的文明』とアートとの関係
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抑圧からの解放と芸術の役割
マルクーゼは、現代社会において人間が「余剰抑圧」と呼ばれる、生存に必要な最小限のもの以上の抑圧を受けていると主張しました。そして、この抑圧からの解放のために、人間の感性や快楽を重視する「エロス」の原理が重要だと考えました。
マルクーゼは、芸術作品がこのエロス的解放を実現する可能性を秘めていると考えました。芸術作品は、現実の抑圧的な社会秩序とは異なる、より自由で解放された世界を表現することで、人間の想像力を喚起し、現状への批判的な意識を育むからです。
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「遊び」としての芸術と「非抑圧的快楽」
マルクーゼは、芸術を「遊び」という概念と結びつけました。「遊び」とは、現実の目的や有用性から解放された、自由で自発的な活動です。芸術も同様に、現実の論理や功利主義的な価値観から離れて、人間の感性や想像力を自由に表現する場となります。
このような「遊び」としての芸術は、マルクーゼが「非抑圧的快楽」と呼ぶものを生み出すとされます。「非抑圧的快楽」とは、現代社会の抑圧的な労働や消費活動から解放された、人間本来の感性に根ざした快楽を指します。
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芸術における「想起」とユートピアへの志向
マルクーゼは、芸術作品は過去の、より自由で調和のとれた社会の「想起」を呼び起こすと考えました。それは、人間がかつて経験した、あるいは潜在的に持ち合わせている、より豊かな感性や自由な生き方への憧憬を喚起するものです。
マルクーゼにとって、このような「想起」は単なるノスタルジーではなく、未来へのユートピア的志向を内包するものでした。つまり、芸術作品を通じて過去の「エロス的な文明」を想起することで、現代社会の抑圧を克服し、より自由で解放された未来社会を実現しようとする、積極的な意味を持っていたのです。