## マルクス/エンゲルスの共産党宣言の対極
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共産党宣言と対峙する思想
「共産党宣言」は、資本主義の弊害を分析し、階級闘争によるプロレタリアート革命と共産主義社会の実現を主張する、社会主義思想の金字塔です。その対極に位置する思想を特定するには、「共産党宣言」が否定するもの、つまり私有財産制、市場経済、階級制度などを肯定的に捉える思想を検討する必要があります。
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自由主義を軸とした反論
「共産党宣言」に対する最も明確な反論の一つは、古典的な自由主義の立場からなされました。アダム・スミスの『国富論』やジョン・ロックの『統治二論』などが代表的な著作として挙げられます。これらの著作は、個人の自由、私有財産権、自由市場の重要性を説き、政府の役割は個人の自由と権利を保護することに限定されるべきだと主張しました。
スミスは「見えざる手」の概念を用い、個人が私的利益を追求することで社会全体の利益も増進されると論じました。これは、共産党宣言が批判する資本主義の根幹をなす考え方であり、市場メカニズムによる資源配分の効率性と、個人の努力と才能に基づく経済的成功を正当化するものでした。
また、ロックは自然権論に基づき、生命、自由、財産に対する権利は人間が生まれながらに持つものであり、いかなる政府といえども侵害することは許されない と主張しました。この主張は、共産党宣言が提唱する私有財産制の廃止と、それに伴う国家による資源の再分配に真っ向から対立するものでした。
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保守主義からの批判
自由主義とは異なる立場から「共産党宣言」を批判したのが、エドマンド・バークに代表される保守主義の思想です。バークは『フランス革命の省察』の中で、フランス革命が伝統と秩序を破壊し、無秩序と恐怖政治をもたらしたと批判しました。
バークは、社会は長い歴史の中で形成された伝統や慣習、制度の上に成り立っており、急激な変革は危険であると説きました。これは、革命によって既存の社会秩序を破壊し、共産主義社会を実現しようとする「共産党宣言」の主張とは相容れないものでした。
保守主義は、人間は不完全な存在であり、理性のみで社会を設計することは不可能だと考えます。そのため、伝統や経験から学び、漸進的な改革によって社会を改善していくことを重視します。これは、階級闘争による革命を肯定する「共産党宣言」とは根本的に異なる立場と言えるでしょう。