## マルクス/エンゲルスのドイツ・イデオロギーの表現
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皮肉と風刺
マルクスとエンゲルスは、『ドイツ・イデオロギー』の中で、彼らが批判する当時のドイツ思想界、特にヘーゲル主義左派の思想に対して、痛烈な皮肉と風刺を多用しています。
例えば、ヘーゲル主義左派の代表的人物であるブルーノ・バウアーやマックス・シュティルナーに対しては、彼らの主張を極端に誇張したり、逆説的に表現したりすることで、その矛盾や空虚さを露呈しようと試みています。
また、マルクスとエンゲルスは、難解な哲学用語を意図的に多用し、当時のドイツ思想界の議論を「観念論の霧」と揶揄しています。このような表現は、彼らが批判する思想の非現実性や実社会から遊離した性格を強調する効果を持っています。
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生きた人間の物質的活動
マルクスとエンゲルスは、『ドイツ・イデオロギー』の中で、それまでの哲学が「観念」を重視してきたのに対し、「現実の、生活する人間」の「物質的な生活活動」に焦点を当てるべきだと主張しています。
彼らは、人間存在の根元を「物質的生産」と「物質的交通」の過程に求め、この過程こそが人間の意識や観念を形成する基盤となると考えました。
そして、この立場から、人間の歴史を「唯物史観」の視点から捉え直そうと試みています。「唯物史観」とは、社会の変革を、物質的な生産力の発展とその発展段階に適合した生産関係との間の矛盾によって説明する歴史観です。
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平易な文体への移行
『ドイツ・イデオロギー』は、全体としては難解な哲学書ですが、所々で平易な文体で書かれた箇所が見られます。
これは、マルクスとエンゲルスが、自分たちの思想を広く一般の人々に理解してもらいたいという意図を持っていたためだと考えられます。
特に、労働者階級の生活状況や、共産主義社会における未来像を描写する場面では、分かりやすく、力強い言葉遣いが用いられています。
これらの表現は、『ドイツ・イデオロギー』が、単なる哲学書ではなく、当時の社会状況に対する鋭い批判と、未来社会への展望を提示した政治的な書物としての性格も併せ持っていたことを示しています。