マルクス/エンゲルスのドイツ・イデオロギーを読む
1. 著作の概要と成立背景
『ドイツ・イデオロギー』は、カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスによって1845年から1846年にかけて執筆された、唯物史観の観点からドイツの思想状況を批判的に検討した著作です。
当時、ドイツ思想界はヘーゲル哲学の影響を強く受けており、特に青年ヘーゲル派はヘーゲル哲学の観念論的な側面を受け継ぎ、現実の社会変革よりも観念の自己展開を重視していました。マルクスとエンゲルスは、このような観念論的な立場を批判し、現実の物質的な生活と生産様式に基礎をおいた唯物論的な歴史観を主張しました。
2. 主な内容
『ドイツ・イデオロギー』は、以下の三つの主要な部分から構成されています。
* **フォイエルバッハについてのテーゼ**: 当時の唯物論の代表者であったルートヴィヒ・フォイエルバッハの思想を批判的に検討し、唯物論をさらに発展させようとした部分です。フォイエルバッハは宗教を人間疎外の産物として批判しましたが、マルクスとエンゲルスは、宗教だけでなく、国家や私的所有といった社会制度も人間疎外の産物であると主張しました。
* **マックス・シュティルナー批判**: 青年ヘーゲル派の一人であり、著書『唯一者とその所有』で極端な個人主義を主張したマックス・シュティルナーに対する批判です。シュティルナーはあらゆる国家や社会制度を否定しましたが、マルクスとエンゲルスは、真の自由は個人の孤立ではなく、共同体の中で実現されると反論しました。
* **聖家族批判**: ブルーノ・バウアーやエドガー・バウアー兄弟を中心とする青年ヘーゲル派のグループ「聖家族」に対する批判です。マルクスとエンゲルスは、「聖家族」の観念論的な歴史観を批判し、現実の社会変革は物質的な力によって達成されると主張しました。
3. 唯物史観の提起
『ドイツ・イデオロギー』で展開される唯物史観は、歴史を物質的な生産力の発展と階級闘争によって説明するものです。マルクスとエンゲルスは、人間はまず生きていくために物質的な生産活動を行い、その生産活動のあり方が社会構造や意識を規定すると考えました。そして、生産様式の変化に伴い、社会は原始共産制、奴隷制、封建制、資本主義といった段階を経て発展していくと主張しました。
また、それぞれの社会には支配階級と被支配階級が存在し、両者の間で利害の対立が生じます。この階級闘争が社会発展の原動力となるとマルクスとエンゲルスは考えました。
4. 出版と影響
『ドイツ・イデオロギー』は、マルクスとエンゲルスの生前に出版されることはありませんでしたが、20世紀に入ってから発見され、1932年にソ連で初めて完全な形で出版されました。
本書は、マルクスとエンゲルスの初期の思想を知る上で重要な著作であるだけでなく、唯物史観を体系的に展開した著作として、その後のマルクス主義の発展に大きな影響を与えました。