## マルクス/エンゲルスのドイツ・イデオロギーの思想的背景
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ヘーゲル哲学と青年ヘーゲル派
マルクスとエンゲルスは、ともにヘーゲル哲学の影響を強く受けた世代でした。ヘーゲルは、現実の世界は「絶対精神」の自己展開の結果であると捉え、「弁証法」という思考方法を用いて歴史の発展を説明しました。しかし、マルクスとエンゲルスは、ヘーゲルの観念論的な歴史観を批判し、物質的な現実を重視する唯物論的な立場に移行していきます。
当時のドイツ思想界では、ヘーゲル左派とも呼ばれる青年ヘーゲル派が台頭していました。彼らは、ヘーゲルの弁証法を社会批判に応用し、既存の国家や宗教の矛盾を指摘しました。特に、ルートヴィヒ・フォイエルバッハは、宗教は人間の疎外された意識の産物であると主張し、人間性の回復を訴えました。マルクスとエンゲルスは、初期には青年ヘーゲル派の活動に参加し、その影響を受けましたが、やがて彼らの唯物論的立場を批判し、独自の思想を形成していくことになります。
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フランスの社会主義
フランス革命以降、フランスでは社会主義思想が発展し、サン=シモン、フーリエ、プルードンといった思想家たちが現れました。彼らは、資本主義社会における貧富の格差や労働者の窮状を批判し、平等で公正な社会の実現を訴えました。マルクスとエンゲルスは、これらのフランスの社会主義思想を研究し、その影響を受けながら、独自の唯物史観と科学的社会主義理論を構築していきました。
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イギリスの古典経済学
産業革命の先進国であったイギリスでは、アダム・スミスやデヴィッド・リカードといった経済学者たちによって古典経済学が発展しました。彼らは、自由競争や労働価値説といった概念を用いて、資本主義経済のメカニズムを分析しました。マルクスは、古典経済学を批判的に継承し、資本主義経済における剰余価値の搾取メカニズムを解明しようとしました。
これらの思想的背景を踏まえ、マルクスとエンゲルスは「ドイツ・イデオロギー」において、唯物史観に基づいた独自の社会主義理論を展開しました。彼らは、歴史は物質的な生産力の発展によって規定され、階級闘争を通じて社会変革がもたらされると主張しました。