## マルクス/エンゲルスのドイツ・イデオロギーとアートとの関係
ドイツ・イデオロギーにおける唯物史観とイデオロギー
マルクスとエンゲルスは、彼等の共著『ドイツ・イデオロギー』(1845年)の中で、唯物史観の観点から歴史と社会を分析しました。唯物史観は、物質的な生産様式が社会構造や意識を決定するという考え方です。マルクスとエンゲルスは、人間はまず生きていくための物質的な条件を満たす必要があり、その生産活動を通して社会関係や意識が形成されると主張しました。
彼らは、支配階級が自らの支配を正当化するために用いる思想や価値観を「イデオロギー」と呼びました。マルクスとエンゲルスによれば、芸術や宗教、哲学といった観念的な領域も、このイデオロギーの影響を受け、支配階級の利益を反映したものとなります。
芸術の社会的基盤と相対性
『ドイツ・イデオロギー』において、芸術は物質的な生産様式や社会関係から独立した自律的な領域としては捉えられていません。マルクスとエンゲルスは、芸術作品の内容や形式、そしてその享受のされ方が、特定の時代の社会的・経済的条件によって規定されると考えました。
例えば、古代ギリシャの芸術は、奴隷制に基づく社会構造やポリス的な社会体制を反映しており、中世ヨーロッパの芸術は、キリスト教的世界観や封建社会の価値観を表現しているといった具合です。
芸術のイデオロギー的機能
マルクスとエンゲルスは、芸術が持つイデオロギー的機能にも注目しました。彼らは、芸術が現実を美しく見せたり、支配的な価値観を肯定することによって、人々の意識を操作し、社会の現状を維持する役割を果たすと指摘しました。
例えば、支配階級の生活を描いた絵画や、権威を賛美する彫刻は、人々に社会的不平等や支配・被支配関係を自然なものと受け入れさせる効果を持つと彼らは考えました。
芸術と社会変革の可能性
しかし、マルクスとエンゲルスは、芸術が常に支配階級のイデオロギーを反映するとは考えていませんでした。彼らは、芸術が既存の社会秩序や支配的な価値観に疑問を投げかけ、社会変革を促す可能性も秘めていると認識していました。
例えば、社会の矛盾や不平等を告発する作品や、人々の抑圧された願望を表現する作品は、人々の意識に変化をもたらし、社会変革の原動力となる可能性があります。