## マリノフスキの西太平洋の遠洋航海者の評価
マリノフスキの西太平洋の遠洋航海者とは?
ブロニスワフ・マリノフスキ著「西太平洋の遠洋航海者」(Argonauts of the Western Pacific)は、1922年に出版された人類学上の重要な著作です。 この本は、第一次世界大戦前にマリノフスキがメラネシアのトロブリアンド諸島で行った長期にわたるフィールドワークに基づいています。
評価ポイント
この著作は、出版当時から今日に至るまで、人類学の分野において非常に高く評価されています。 その理由は、以下の点が挙げられます。
* **参与観察の重視**: マリノフスキは、従来の進化主義的人類学が依拠してきた、未開社会に関する旅行記や宣教師の報告といった間接的な資料ではなく、自らが現地社会に長期間滞在し、参与観察を行うことで得られたデータに基づいて、トロブリアンド諸島の社会と文化を分析しました。 この手法は、今日の文化人類学においても標準的な方法となっています。
* **全体論的な視点**: マリノフスキは、トロブリアンド諸島の社会を、経済、政治、宗教、親族、芸術など、様々な側面から総合的に捉えようとしました。 特に、クラン、交換、魔術といった要素が相互にどのように関連し合っているのかを明らかにしました。
* **文化相対主義**: マリノフスキは、西洋文明の価値観を基準にトロブリアンド諸島を評価するのではなく、彼ら自身の文化の論理に基づいて理解しようとしました。 このような文化相対主義的な視点は、当時の西洋中心的な人類学において革新的なものでした。
* **詳細な民族誌**: マリノフスキは、クーリーと呼ばれる儀礼的な交易システムや、それに伴う貝殻の装飾品(ムワリとソウラヴァ)の交換、性と結婚に関する慣習など、トロブリアンド諸島の文化を詳細に記述しました。 このような詳細な民族誌は、後の世代の人類学者にとっても貴重な資料となっています。
批判的な評価
「西太平洋の遠洋航海者」は、画期的な著作として評価されている一方で、以下のような批判的な意見も存在します。
* **女性の視点の欠如**: マリノフスキの民族誌は、主に男性中心的な視点から書かれており、女性の社会における役割や経験については十分に記述されていません。
* **植民地主義との関係**: マリノフスキの研究は、ヨーロッパによる植民地支配が行われていた時代に実施されました。 そのため、彼の研究が植民地主義的な視点を完全に免れているかどうかについては、議論の余地があります。
* **理論的な深みの不足**: マリノフスキの著作は、詳細な民族誌的記述に優れている一方、理論的な深みに欠けるとの指摘もあります。
これらの批判点は、「西太平洋の遠洋航海者」の価値を大きく損なうものではありません。 しかし、この著作を批判的に読むためには、上記のような点も考慮する必要があるでしょう。