## ポーの黄金虫から学ぶ時代性
###
19世紀前半のアメリカ社会における科学と合理主義の台頭
「黄金虫」は1843年に発表されました。これはアメリカにおいて、産業革命の影響が徐々に広がり、科学技術が急速に進歩していた時代です。人々は自然科学の力によって、未知の世界を解明できるという期待感に満ち溢れていました。
作中では、主人公のルグランが暗号解読を通して財宝の在り処を突き止める過程が描かれています。暗号解読は、論理的思考と科学的知識を駆使する行為であり、当時の合理主義的な風潮を色濃く反映しています。ルグランが用いる分析的な手法は、まさにこの時代の科学的思考法を象徴するものであり、読者は彼を通して、理性と知性によって謎が解き明かされる快感を味わうことができました。
###
奴隷制と人種差別への意識
「黄金虫」は、奴隷制が認められていた時代のアメリカ南部を舞台としています。作中には、黒人であるジュピターが登場しますが、彼は迷信深く、知性において白人であるルグランに劣る存在として描かれています。
このような描写は、当時のアメリカ社会に根強く存在した人種差別的な価値観を反映したものであり、今日では批判の対象となる可能性があります。一方で、ジュピターはルグランに対して献身的に尽くす忠実な人物として描かれており、彼の存在は、白人と黒人の間に主従関係を超えた友情が育まれていることを示唆しています。
この複雑な描写は、当時のアメリカ社会における人種間の力関係や、白人社会における黒人に対するステレオタイプな見方を浮き彫りにしています。