## ボールディングの紛争の一般理論の普遍性
###
ボールディングの紛争の一般理論とは？
ケネス・ボールディングは、経済学者であり、平和学者でもありました。彼は1962年に出版された著書「紛争の一般理論」の中で、経済学の分析手法を用いて、個人間から国家間まであらゆるレベルの紛争を包括的に理解しようと試みました。この理論は、紛争を単なる暴力行為として捉えるのではなく、人間の行動パターン、社会構造、資源配分など、多岐にわたる要因が複雑に絡み合った結果として捉えるものです。
###
一般理論の中心概念
ボールディングの理論は、「紛争は、双方が望むものを同時に達成することができないという認識から生じる」という前提に基づいています。彼はこの状況を「静的な合計ゲーム」と呼び、片方の利益がもう片方の損失になるゼロサムゲームと対比しました。ボールディングは、紛争を分析するための主要な変数として、以下の3つを提示しています。
* **当事者**: 紛争に関与する個人、集団、国家など
* **利害**: 当事者がそれぞれ達成しようとする目標や価値
* **資源**: 当事者が利害を追求するために利用できる手段や力
###
普遍性を示唆する要素
ボールディングの理論は、特定の時代や文化に限定されず、あらゆる紛争に適用できる普遍的な枠組みを提供することを目指しています。この普遍性を示唆する要素としては、以下の点が挙げられます。
* **人間の行動様式**: ボールディングは、人間は自己利益を追求し、限られた資源を奪い合うという性向を持つと仮定しています。この仮定は、特定の文化や歴史的背景に依存せず、人間の普遍的な行動様式として捉えられています。
* **紛争の構造**: ボールディングは、紛争を構成する要素（当事者、利害、資源）を抽象的なレベルで定義することで、具体的な内容に関わらず、あらゆる紛争に適用可能な分析枠組みを構築しました。
* **多様な紛争への適用**: ボールディングの理論は、国家間戦争、民族紛争、労働争議、夫婦間の対立など、様々なレベルの紛争に適用されてきました。これは、彼の理論が持つ普遍性を示唆する一つの証拠と言えるでしょう。
###
普遍性に対する批判
ボールディングの理論は、その包括性と洞察力から高く評価されていますが、一方で、その普遍性については批判的な意見も存在します。
* **文化や文脈の軽視**: ボールディングの理論は、人間の行動を普遍的なものと捉え、文化や社会構造、歴史的背景などの影響を十分に考慮していないという批判があります。
* **力関係の過小評価**: ボールディングは、紛争を対等な立場にある当事者間の相互作用として捉えていますが、現実には、権力や資源の不均衡が紛争の発生や経過に大きな影響を与えることが少なくありません。
* **紛争解決への示唆の不足**: ボールディングの理論は、紛争の発生メカニズムを分析することに重点を置いており、具体的な紛争解決の方法については十分な示唆を与えていないという指摘があります。
これらの批判は、ボールディングの理論が現実の複雑さを十分に捉えきれていない可能性を示唆しています。しかし、彼の理論は、紛争を理解するための基礎的な枠組みを提供し、その後の紛争研究に多大な影響を与えてきたことは間違いありません。