ボワイエの啓蒙哲学入門を読む前に
ボワイエの背景
ピエール・ボワイエ(1917-1998)は、フランスを代表する思想史家の一人であり、特に17,18世紀の思想史、啓蒙主義の研究で大きな業績を残しました。彼の代表作である『啓蒙哲学入門』は、その明快な論理と豊富な知識によって、啓蒙主義という複雑な思想運動のエッセンスを鮮やかに描き出しており、世界中で読まれ続けています。しかし、ボワイエ自身もまた特定の思想的立場を持つ歴史家であることを理解しておくことは重要です。彼は、20世紀前半にフランスで隆盛した、マルクス主義の影響を受けた歴史学派である「アナール学派」の出身であり、その影響は彼の歴史観や方法論に色濃く反映されています。
アナール学派の影響
アナール学派は、従来の政治史中心の歴史学から脱却し、社会構造や経済状況、文化やメンタリティなど、より長期的な視点から歴史を捉え直そうとしました。ボワイエの『啓蒙哲学入門』もまた、単に思想家の思想を羅列するのではなく、当時の社会状況や政治体制、経済発展、科学技術の進歩といった、より広い文脈の中で啓蒙主義思想を位置づけようという意図を持って書かれています。そのため、本書を読む際には、ボワイエ自身の歴史観や方法論、そして彼が属していたアナール学派の思想的背景を意識することが重要になります。
啓蒙主義の全体像
啓蒙主義は、18世紀のヨーロッパを中心に展開された、理性と経験に基づいて、人間の思考や社会のあり方を根本的に問い直そうとした、壮大な知的・文化的運動でした。しかし、啓蒙主義は決して一枚岩の思想運動ではなく、そこには多様な思想家たちがそれぞれの立場から、政治、経済、宗教、教育、芸術など、あらゆる分野にわたって、旧来の権威や伝統に挑戦する、多種多様な思想が渦巻いていました。
当時の社会状況
啓蒙主義は、17世紀の科学革命や産業革命の進展、そして市民社会の台頭といった、当時の社会状況と密接に関連しながら発展しました。新しい科学的発見は、世界の神秘性を解き明かし、人間の理性に対する信頼を高めました。また、産業革命は、経済構造や社会階層に大きな変化をもたらし、伝統的な身分制度に対する批判を生み出しました。このような時代背景を理解することは、啓蒙主義思想の持つ意味や意義をより深く理解するために不可欠です。
主要な思想家と著作
啓蒙主義には、ジョン・ロック、ジャン=ジャック・ルソー、シャルル・ド・モンテスキュー、ヴォルテール、デイヴィッド・ヒューム、アダム・スミスなど、時代や地域を超えて、現代社会にも大きな影響を与え続けている、数多くの傑出した思想家が登場しました。彼らの代表的な著作、例えば、『統治二論』『社会契約論』『法の精神』『哲学書簡』『人間悟性論』『国富論』など、に触れることは、啓蒙主義思想の多様性と奥深さを理解する上で非常に有効です。