ボルヘスのバベルの図書館の原点
図書館というモチーフ
ボルヘスは幼少期から父親の蔵書で育ち、自身も図書館員として働いた経験を持つなど、図書館と密接な関係にあった。彼の作品には頻繁に図書館が登場するが、「バベルの図書館」はその集大成と言えるだろう。無限の書物を収蔵した迷宮のような図書館は、ボルヘスにとって、世界の広大さと人間の知識の限界を表現する象徴的なモチーフであった。
無限と組み合わせの概念
「バベルの図書館」は、有限な記号の組み合わせによって無限の書物が生み出されるという設定を持つ。これは、数学者ゲオルク・カントールの集合論における、可算無限と非可算無限の概念を想起させる。ボルヘスは数学、特に論理学や集合論に深い関心を抱いており、その影響が「バベルの図書館」に見られることは間違いないだろう。
先行作品からの影響
「バベルの図書館」には、過去の文学作品からの影響も指摘されている。例えば、無数の部屋が続く迷宮のような構造は、ブレット・ハートの短編小説「メンデルスゾーン」を彷彿とさせる。また、あらゆる可能性が書物として存在するというアイデアは、ルイス・キャロルの「鏡の国のアリス」における「存在しない本」の概念と共通点が見られる。これらの先行作品は、ボルヘス自身の読書体験を通して「バベルの図書館」の着想に影響を与えた可能性がある。