## ボブリンスキーのパレオアジアの原点
ボブリンスキーとパレオアジアの提唱
ロシアの言語学者・民族学者であるニコライ・ボブリンスキー(Nikolai Mikhailovich Bobrinskii, 1868-1928)は、ウラル語族、アルタイ語族、チュクチ・カムチャツカ語族、エスキモー・アレウト語族などを含む、北アジア・北アメリカに分布する諸言語に対して、「パレオアジア諸語」という概念を提唱しました。これは、これらの言語が、インド・ヨーロッパ語族や、アルタイ諸語など、ユーラシア大陸に広がる他の主要な語族とは異なる起源を持つと考え、それらを包括的に指すために用いられた用語です。
パレオアジア諸語の分布と特徴
ボブリンスキーがパレオアジア諸語と考えた言語は、ユーラシア大陸の北東部、シベリア、北アメリカ大陸の北部に分布しています。これらの言語は、地理的に大きく離れている場合でも、文法構造や音声体系において、いくつかの共通点を持っているとされています。
例えば、多くのパレオアジア諸語では、膠着語的な特徴が見られます。これは、文法的な機能を示すために、単語の語幹に接辞を付加していく言語類型です。また、名詞の格変化が発達している点や、動詞の人称変化が複雑である点も、共通の特徴として挙げられます。
パレオアジア仮説への批判と現状
ボブリンスキーのパレオアジア仮説は、その後、多くの言語学者によって批判的に検討されてきました。主な批判点は、パレオアジア諸語とされる言語群の間の系統関係が、必ずしも明確ではないという点です。一部の言語学者は、これらの言語の類似性は、共通の祖語に由来するのではなく、長期間にわたる言語接触の結果として生じた可能性を指摘しています。
現在では、パレオアジア諸語という分類は、必ずしも広く受け入れられているわけではありません。しかし、ボブリンスキーの業績は、北アジア・北アメリカの諸言語の多様性と複雑さに光を当て、その起源と相互関係について、多くの議論を巻き起こしたという点で、重要な意義を持っていると言えるでしょう。