## ボッカチオのデカメロンの美
###
物語の構造における美
「デカメロン」は、ペスト流行から逃れた10人の男女が、10日間毎日1話ずつ物語を語るという、枠物語の形式をとっています。この形式自体が、秩序と調和を体現しています。100の物語は独立していながらも、日ごとに設定されたテーマや登場人物たちの反応を通して、緩やかに結びついています。これは、多様な人間模様と人生の複雑さを、美しい秩序のもとに描き出す効果を生み出しています。
###
言語表現における美
ボッカチオは、作品中でトスカーナ語を用い、洗練された文体で物語を紡ぎ出しています。機知に富んだ表現、生き生きとした描写、登場人物の個性に合わせた巧みな言葉遣いは、読者を物語の世界へと引き込み、登場人物たちの感情や情景を鮮やかに伝えます。特に、喜劇的な場面における言葉の軽妙さは特筆に値し、読者に笑いを誘うだけでなく、人間の滑稽さを浮き彫りにします。
###
人間描写における美
「デカメロン」には、貴族から庶民まで、様々な階層の人物が登場し、愛欲、機知、幸運、悪巧みなど、人間の本質をありのままに体現しています。ボッカチオは、善悪の二元論に陥ることなく、登場人物一人ひとりの行動や心理を丁寧に描き出すことで、人間の複雑さを浮き彫りにしています。これは、理想化された人物像を描くことが多かった中世文学において、画期的な試みでした。
###
テーマにおける美
「デカメロン」は、単なる娯楽作品ではなく、当時の社会や人間存在に対する深い洞察を含んでいます。ペストという死の影に覆われた世界を舞台にすることで、生の輝きと儚さを際立たせると同時に、人間の逞しさや生きる喜びを力強く描き出しています。また、教会や封建制度に対する風刺や批判を織り交ぜることで、中世的な価値観から脱却し、人間中心の新しい世界観を提示しています。