ボッカチオのデカメロンの原点
物語集の伝統
「デカメロン」は、物語集という、それ以前から存在していた文学の伝統に属しています。 古代インドの「パンチャタントラ」や「ジャータカ」、アラブ世界の「千夜一夜物語」、あるいは西洋中世の「七賢者の訓戒」など、さまざまな文化圏で物語集は親しまれてきました。 ボッカチオもこれらの先行作品から影響を受けており、「デカメロン」には、それらの作品に登場する物語類型やモチーフが数多く見られます。
ペスト禍の経験
「デカメロン」の執筆の背景には、14世紀半ばにヨーロッパを襲ったペスト禍の存在があります。 ボッカチオ自身も、このペストを経験しており、「デカメロン」の導入部分には、当時のフィレンツェにおけるペストの惨状が生々しく描かれています。 死の恐怖が蔓延する状況下で、人々は物語を語ることで、束の間の慰めと希望を見出そうとしたのでしょう。
ボッカチオ自身の境遇
ボッカチオは、非嫡出子として生まれ、青年期をナポリで過ごしました。 ナポリは当時、商業都市として栄え、文化的多様性に富んだ都市でした。 ボッカチオは、そこで様々な階層の人々と交流し、多彩な人生経験を積んだと考えられます。 「デカメロン」に登場する、商人、職人、聖職者、貴族など、様々な階層の人々の生き生きとした描写は、ボッカチオ自身の幅広い人間観察に基づいていると言えます。