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ボッカチオのデカメロンから学ぶ時代性

## ボッカチオのデカメロンから学ぶ時代性

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黒死病がもたらした社会不安と死生観の変化

ペスト禍を背景とした『デカメロン』は、当時の社会に蔓延する死の影と隣り合わせに生きる人々の姿を鮮やかに映し出しています。物語の語り手である10人の男女は、ペストから逃れるためにフィレンツェ郊外の別荘へと身を寄せ、退屈しのぎに10日間、日替わりで物語を語り合います。これは、いつ死が訪れるか分からないという不安と恐怖の中で、精一杯に「今」を生きようとする人々の姿を表していると言えるでしょう。

また、ペストの流行は中世ヨーロッパの社会構造に大きな影響を与え、従来の価値観や道徳観を揺るがすこととなりました。教会の権威は失墜し、人々は死後の救済よりも、現世での欲望や快楽を優先する傾向を強めていきます。デカメロンに登場する様々な身分の人物たちの奔放な言動や、教会や聖職者を風刺する物語の数々は、そうした社会不安と価値観の変容を反映していると考えられます。

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人間中心主義の台頭と社会階層の流動化

『デカメロン』には、聖職者や貴族から商人、職人、農民、さらには盗賊や詐欺師まで、あらゆる階層の人物が登場します。そして、彼らの多くは機知に富み、したたかで、自らの欲望に忠実に生きています。これは、中世的な身分秩序や宗教的規範に縛られず、人間本来の理性や欲望を肯定的に捉える、ルネサンス期特有の人間中心主義的な思想を反映していると言えます。

さらに、ペストの流行は社会階層の流動化を促進させ、従来の権力構造を揺るがす一因となりました。身分の低い者がペストによって財産を手に入れたり、逆に高貴な身分の人間が没落していく様子も描かれ、当時の社会構造の変化を読み取ることができます。このような状況下では、個人の能力や才覚がより重要視されるようになり、運命に抗う人間の力強さが強調されるようになっていったのです。

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語りを通して浮かび上がる人間の多様性と普遍性

『デカメロン』の魅力は、100編という膨大な数の物語に、人間のあらゆる営み、喜怒哀楽、狡猾さや愚かさ、そして愛と欲望が赤裸々に描かれている点にあります。そこには、時代や社会が変わっても変わらない、人間の普遍的な姿を見出すことができます。

語り手たちは、それぞれの立場や経験に基づいて物語を選び、解釈を加えていきます。時には教訓的な話もあれば、滑稽な話、残酷な話もあり、その多様性は人間の複雑さを浮き彫りにします。読者は、様々な人生模様を垣間見ることを通して、人間の心の奥底に潜む欲望や本質、そして生きる意味について考えさせられるのです。

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