## ボアンカレの科学と方法を読む
数学者の精神について
「ボアンカレの科学と方法」の第一章「数学者の精神」では、数学的発見における直観の役割について論じられています。ボアンカレは、数学的創造の過程は論理的な推論だけでは説明できないものであり、そこには直観と呼ばれる非論理的な要素が深く関わっていると主張します。
ボアンカレは、数学者が問題解決に至るまでの道のりを、意識的な努力と無意識的な活動の繰り返しによって進む旅に例えています。複雑な問題を前にした数学者は、まず意識的に問題に取り組み、様々な角度から分析を試みます。しかし、意識的な努力だけでは解決に至らない場合、問題は一旦無意識の領域へと委ねられます。
無意識は、意識が他のことに気を取られている間も、問題解決に向けて働き続けます。そして、ある時、突然ひらめきという形で解決策が意識に浮かび上がります。このひらめきは、無意識の領域で行われていた複雑な計算や組み合わせの結果であり、論理的な推論だけではたどり着けないものです。
数学的発見の道具
第二章「数学的発見の道具」では、数学者が研究に用いる様々な道具について考察が深められます。ボアンカレは、数学の研究には論理と直観という二つの重要な道具が必要であると述べています。
論理は、数学的真理を証明するために不可欠な道具です。数学者は、公理と呼ばれる自明な命題から出発し、論理的な推論を積み重ねることによって、新たな定理を証明していきます。このプロセスにおいて、論理は厳密性を保証する役割を担います。
一方、直観は新しいアイデアを生み出す源泉となります。ボアンカレは、数学的な直観は単なる感覚的なものではなく、長年の数学的経験によって培われた一種の美的感覚であると説明します。数学者は、この美的感覚を頼りに、無数の可能性の中から、興味深く有望なアイデアを選び取っていくのです。
新方法と旧方法
第三章「新方法と旧方法」では、19世紀末から20世紀初頭にかけて起こった数学の変革について論じられています。ボアンカレは、この時代の数学を特徴づけるものとして、「厳密性の追求」と「抽象化の進展」を挙げます。
19世紀以前の数学では、直観的な理解や幾何学的なイメージが重視されていました。しかし、19世紀後半に入ると、数学の基礎をより厳密なものにしようとする動きが強まります。これは、当時の数学において、直観に頼った議論が矛盾を生み出すケースが少なくなかったためです。
また、この時代には、集合論や位相空間論といった抽象的な数学の分野が発展しました。これらの分野は、具体的な対象を離れて、数学的構造そのものを研究対象とするという点で、従来の数学とは一線を画すものでした。